ツール・ド・フランスのスーパースター、ランス・アームストロング(Lance Armstrong)の栄光と転落を描いた映画です。
わたし自身、自転車競技にはまったく興味がなくて、ツール・ド・フランスと聞くと、真っ先に頭に浮かぶのは“フランス旅行団”と誤訳されていたエピソード(翻訳夜話)。それにもかかわらず、この映画はすごく楽しめました。
さすがスティーブン・フリアーズ(Stephen Frears)監督です。「あなたを抱きしめる日まで」のブログにも書きましたが、「マイ・ビューティフル・ランドレット」の監督であり、「ハイロー・カントリー」「堕天使のパスポート」から「クィーン」まで幅広く手がけているベテランだけのことはあります。
映画のベースになったのは、The Sunday Timesで自転車競技を担当していたデイヴィッド・ウォルシュ(David Walsh)が2012年に発表した“Seven Deadly Sins: My Pursuit of Lance Armstrong”という書籍。彼は2001年に"Champ or Cheat?"という記事で、なぜクリーンなサイクリストが疑惑の医師と共に働くのかとドーピング疑惑を追求し始め、2007年には“From Lance to Landis: Inside the American Doping Controversy at the Tour de France”を出版している執念の人です。
映画の幕開けは疾走する自転車と路面のアップ。目がくらむようなスピード感で自転車レース、とりわけ山岳コースに熱狂する理由が自然と伝わってきます。こういった躍動感ある映像や選曲と、ドーピングの陰鬱さのコントラストが際立つ作品です。
米国内で連勝していたランス・アームストロングは、1993年にツールドフランスに参戦して好成績を収めます。しかしその後、赤血球を増やす因子であるEPOを知り、さまざまなドーピングに手を染めていくことになります。その過程で知り合ったのがイタリア人医師のミケーレ・フェラーリ(Michele Ferrari)。この結びつきが彼の人生を大きく変えることになります。
1996年のシーズン後半、体の不調を感じて受けた診断で、精巣癌が肺と脳にも転移していることがわかります。このときに告げられた生存確率は50%で、これが彼の復活後のキャッチフレーズになるのですが、化学療法と脳切除の手術が成功し、1998年にはUSポスタル所属の選手として復帰します。
そして1999年にツール・ド・フランス優勝。そこから2005年まで7連覇という偉業を達成するわけですが、2000年に癌との闘いを綴った“It’s Not About the Bike”を刊行して、癌患者を支援するセレブとしての存在感を高めたことが、勝利への意欲を無敗へのプレッシャーに変え、ミケーレ・フェラーリとの関係を深めていくことになります。
このフェラーリ医師を演じたのがフランス人のギヨーム・カネ(Guillaume Canet)。最近あまり見かけませんので、マリオン・コティヤールのパートナーとしての方が有名かも知れませんが、彼のなまった英語がいかにも怪しげで、とってもいい感じです。
ランス・アームストロングを演じたベン・フォスター(Ben Foster)はロビン・ライトと結婚した噂しか知りませんが、チームメイトのフロイド・ランディスを演じたジェシー・プレモンス(Jesse Plemons)は、「ザ・マスター」で教祖の息子、「ブリッジ・オブ・スパイ」でパワーズ大尉の同僚、「ブラック・スキャンダル」でバルジャーの用心棒になるチンピラと、役柄と共に成長してきた売り出し中の俳優さんですね。
もちろん原作者のデイヴィッド・ウォルシュも疑惑究明に至る重要な役です。演じたクリス・オダウド(Chris O’Dowd)は、「パイレーツ・ロック」で気の良いサイモン役、「ヴィンセントが教えてくれたこと」で教師役を演じていた人。その他、ランス・アームストロングのスポンサー役で、「三ツ星フードトラック」でも見かけたダスティン・ホフマン(Dustin Hoffman)がほんの少し出てきます。
ランス・アームストロングは、2012年8月24日に全米アンチドーピング機関(USADA)から1998年8月1日以降のすべての記録抹消と「永久追放」を宣告され、7回のツール・ド・フランス・チャンピオンの栄冠も失います。2013年1月にランス・アームストロング本人がオペラ・ウィンフリーのインタビューで自らのドーピングを認めてこの一件は収束しました。
以降、ツール・ド・フランスのドーピング検査はどんどん厳しくなっているようで、新たな検査法が導入される可能性を考慮して、上位5名のサンプルは10年間も保存されるそうです。それでも、どんな方法を使っても勝ちたい人はいるわけで、つい先日、自転車に小型モーターなどを仕込まないようにサーモグラフィで検査すると発表されていました。
公式サイト
疑惑のチャンピオン(The Program)
[仕入れ担当]