「007 スカイフォール」のM役や、続編を制作中の「マリーゴールド・ホテルで会いましょう」でお馴染みのジュディ・デンチ(Judi Dench)主演作。コメディタッチの人間ドラマとしても十分に楽しめますが、その根底には腐敗したカソリックの姿があり、性的マイノリティに寛容でない米国中西部の姿もあり、笑いと涙だけでは終わらせない実話ベースの作品です。
英国で慎ましく暮らす初老のフィロミナ・リー(Philomena Lee)には約50年間、誰にも語らなかった秘密がありました。未婚で妊娠したことによってアイルランドの修道院に入れられ、ずっと洗濯などの重労働に従事していたこと。そこで出産した息子は3歳のときに修道院から養子に出され、それ以来、一度も会っていないが、一瞬たりとも忘れたことはないこと。
修道院を出てから看護婦の職を得て、子どもも育て上げたフィロミナは、今年50歳になるはずの息子にひと目会いたいと娘のジェーンに相談します。ジェーンが、たまたま知り合った元BBCのジャーナリスト、マーティン・シックスミス(Martin Sixsmith)に話したことから、フィロミナとマーティンの二人組による人捜しが始まります。
フィロミナはいまだに信仰が篤く、ロマンス小説とTVだけが楽しみという質実剛健な田舎の老婦人。対するマーティンはオックスフォード卒でナイツブリッジ在住という高級志向の都会派インテリ。まったくタイプが異なる二人が一緒に行動しますので、何をしてもチグハグな面白さに溢れています。
息子(Michael Hess)の行方は、割と早い段階で明らかになりますが、その後の、修道院の闇に繋がっていく部分がこの映画のテーマでしょう。
「思秋期」での哀愁あふれる演技が記憶に新しいピーター・マランが監督した映画「マグダレンの祈り」や、ジョニ・ミッチェルの名曲“Magdalene Laundries”で広く知られるようになったマグダレン修道院と呼ばれる施設がありましたが、フィロミナが入れられていたSean Ross Abbeyも似たような施設なのです。純潔を失った罰ということで重労働が課せられ、さらに産まれた子どもを取りあげて養子に出してしまう。この養子縁組が実質的に人身売買であることも問題です。
そして、この人身売買の当事者だったシスター・ヒルデガードが、これを神の意志に基づく行いだと盲信し、神の権威を振りかざすことも非常に厄介。宗教施設による児童移民の問題に真っ向から取り組んだジム・ローチ監督の「オレンジと太陽」のような作品もありましたが、本作でも、自己目的化して倫理観を失った宗教の危うさが描かれます。
監督はヘレン・ミレン主演の「クィーン」で知られるスティーヴン・フリアーズ(Stephen Frears)。この映画を観た後、私の大好きなダニエル・デイ=ルイスが出ている「マイ・ビューティフル・ランドレット」を撮った監督だと知って、ちょっと驚きしました。
マーティン・シックスミスを演じたのは、この映画の脚本も書いているスティーヴ・クーガン(Steve Coogan)。「メイジーの瞳」でも、poshというかsnobというか、気取った英国人画商を巧みに演じていましたが、本作でも鼻につくインテリくささを上手に醸し出していました。
それにしても米国人というのは子どもを買うのが好きですね。最近は中国に養子をもらいに行くグループツアーがあるそうで、友人が大連空港でトランジットしたら、アジア系の赤ちゃんを抱いた白人カップルばかりで驚いたと言っていました。まぁ「それでも夜は明ける」のような歴史を考えれば、子どもの売買ぐらいでは問題視されないのかも知れませんが……。
公式サイト
あなたを抱きしめる日まで(Philomena)
[仕入れ担当]