英国映画らしいウィットに富んだセリフが楽しめるコメディタッチの映画です。随所で笑わせながら、ほんのり温かい気持ちにさせてくれる、愛すべき作品だと思います。
主な舞台はインドのジャイプール。それぞれ事情を抱えた英国人シニアたちが、リーズナブルでエキゾチックな老後を求めてインドにやってきます。
アジアを旅したことがある人なら、"The Best Exotic Marigold Hotel"という原題を見ただけでピンとくるでしょうが、英語表示で"The Best in Asia"などと宣伝しているところは、たいてい飛んでもない食わせもので、レストランなりホテルに着いた途端、どこがベストなんだ!と悪態をつきたくなるようなところばかりです。
そんなジャイプールのホテルにやってきた7人(夫婦1組+男2人+女3人)を迎える若いホテルオーナー、ソニーを演じるのは「スラムドッグ$ミリオネア」のデブ・パテル(Dev Patel)。インド訛りの英語で口八丁の言い訳をまくし立てる彼を見ているだけで、まるでインドにいるような気分になります。
個人的な思い出話を書くと、昔、カジュラホからサトナ駅まで新聞輸送のジープに相乗りさせてもらったことがあるのですが、ふと積荷の新聞を見たら2日後の日付で、驚いている私に向かって同乗者たちが言った言葉は「インドの新聞は常に先を行ってるんだ(always advanced)」。まぁそんな具合のIncerdeble !ndiaです。
それはさておき、夫を失い、夫の残した借金の返済のために自宅を売却することになったイブリンを演じるのは、つい先頃まで007シリーズのMだったジュディ・デンチ(Judi Dench)。冷徹なキャリア官僚らしいM役とは打って変わって、この映画では、ずっと専業主婦だった過去から脱皮して、インドで働こうとする女性を演じます。
そして唯一の夫婦の夫、ダグラスを演じるのが、「ラブ・アクチュアリー」「パイレーツ・ロック」のビル・ナイ(Bill Nighy)。妻に頭の上がらない優しい夫の役なので、なよっとした雰囲気で自虐的なジョークを言うのですが、これがおかしくて、じわっと効いてきます。
そしてインド嫌いの妻ジーンを演じるのがペネロープ・ウィルトン(Penelope Wilton)。毎日、ホテル内でDeborah Moggach(この映画の原作者です)のペーパーバックを読んでいて、何をしていたかと訊かれて、午前中はゴキブリに名前を付けていたと答えるあたり、いかにも英国人が言いそうな感じです。
唯一のインド通、外交官の子どもとして幼少期をインドで過ごしたというグレアムを演じるのが「フル・モンティ」他の名優トム・ウィルキンソン(Tom Wilkinson)。
それとは対照的に、英国にいるときから有色人種に差別的だった元ハウスメイド、車いすに乗ったミュリエルを演じるのが「ハリー・ポッター」シリーズのマギー・スミス(Maggie Smith)。食べ物も超保守的で、カレーには見向きもせず、ずっとHobnobのビスケットを食べています。
そして残り2人は、セリア・イムリー(Celia Imrie)演じるマッジと、ロナルド・ピックアップ(Ronald Pickup)演じるノーマン。共に新たな出会いを求めている2人ですが、彼らがくっつくことはなく、ノーマンの関心はインド在住のキャロルへ。ちなみにキャロルを演じているダイアナ・ハードキャッスル(Diana Hardcastle)、実生活ではトム・ウィルキンソン夫人です。
そんな個性的なシニア俳優が勢揃いしてドタバタが繰り広げられるわけですが、ストーリーもきちんと展開していきますし、故あって出かけるウダイプールの風景は美しいし、ところどころで小さな感動と、ちょっとした気づきを与えてくれます。そんなわけで、やはり人気なのでしょうか、既に続編の企画がスタートしているようです。
疲れ気味だったり落ち込み気味だったりして、寛いだ気分でクスッと笑える映画が観たいとき、超お勧めです。
公式サイト
マリーゴールド・ホテルで会いましょう(The Best Exotic Marigold Hotel)
[仕入れ担当]