監督がスティーヴン・スピルバーグ(Steven Spielberg)、脚本がコーエン兄弟(Ethan Coen、Joel Coen)とマット・チャーマン(Matt Charman)、主演がトム・ハンクス(Tom Hanks)という豪華な布陣の作品です。テーマーは冷戦時代の米ソの駆け引き。実話ベースの物語です。
時代は1957年。N.Y.のブルックリンで画家のルドルフ・アベル(Rudolf Abel)がFBIに逮捕されます。
彼の本名はウィリアム・フィッシャー。原子力施設の諜報活動をしていたソビエト連邦の大佐でした。米国から二重スパイになるように説得されながら、その申し出をあっさり断り、法廷で裁かれることになります。
弁護士会を通じて、トム・ハンクス演じる主人公ジェームズ・ドノバン(James B. Donovan)のもとにアベル弁護の要請がきます。N.Y.の法律事務所のパートナーを務める保険専門の弁護士ですので、ちょっと唐突な感じがしますが、実はドノバン、大戦中はOSSで法務を担当し、ニュルンベルグ裁判ではロバート・ジャクソン(Robert Jackson)首席検事のアシスタントを務めた人。ハーバードのロースクールを出て以来ずっと軍に関わり、政治の裏側を見続けてきた専門家なのです。
そんな陰の部分を持つ人物も、トム・ハンクスが演じると実直そのもの。でもそれで正解です。なぜならば、この映画の根底にあるのは、誠実さが世界を動かすという考え方だから。主人公が真面目一筋の弁護士だからこそ共感が呼べるわけで、百戦錬磨の寝業師ではせっかくの良い話も興醒めというものでしょう。
敵国のスパイを弁護する以上、ドノバンに対する風当たりも想像に難くありません。しかしドノバンには、敵国のスパイであろうとも法の下では公平に扱うべきだという信念があります。さまざまな嫌がらせにも屈せず、何とかアベルの死刑を回避し、懲役30年を勝ち取ります。映画では判事と直接交渉した形になっていますが、実際は法廷で捕虜交換の可能性を訴え、どうやらそれが受け入れられたようです。
ドノバンが予見していた捕虜交換はすぐに現実のものとなります。1960年5月、ソ連領内を偵察飛行していたロッキードU-2が地対空ミサイルで撃墜され、操縦していたゲーリー・パワーズ大尉(Francis Gary Powers)が捕らえられてしまうのです。
早速、東ベルリンのソ連大使館から接触があり、スパイ交換の交渉が始まります。アベルとパワーズの交換交渉は円滑に進んだようですが、ドノバンは、東ドイツにスパイ容疑で拘留されていた留学生フレデリック・プライヤー(Frederic Pryor)の釈放も求めます。それまでの彼の口癖“One, one, one”(それは1件のうち)が“Two, two, two”に変わるときです。
そして1962年2月10日、グリーニケ橋(Glienicke Bridge)でアベルとパワーズが交換され、チェックポイントチャーリーでプライヤーが開放されます。舞台となったこの橋は、たびたびスパイ交換が行われたことから、映画の題名でもあるブリッジ・オブ・スパイと呼ばれたそうです。
スピルバーグ監督いわく「お互いの間に(壁を築くのではなく)橋をかけることを伝えたい」というこの作品。トム・ハンクスに語らせる「我々が米国人であるといえる唯一の理由は、我々が共に憲法を守ることに同意していることだ」というセリフを含め、多分に(米国人に対する)啓蒙的な映画だと言えるでしょう。日本人としてはやや鼻につく部分もあるとはいえ、非常に真摯な姿勢で作られた立派な作品であることに間違いありません。
主な出演者としてはドノバンの妻メアリーの役で「バードマン」のエイミー・ライアン(Amy Ryan)、パワーズ大尉の役で「セッション」の主人公のライバル役オースティン・ストウェル(Austin Stowell)、東ドイツ側の弁護士ヴォルフガング・フォーゲル役で「善き人のためのソナタ」のセバスチャン・コッホ(Sebastian Koch)が出ています。
公式サイト
ブリッジ・オブ・スパイ(Bridge of Spies)
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