ゴヤ賞ほかアカデミー外国語映画賞などを受賞したアルゼンチン映画「瞳の奥の秘密」を、「キャプテン・フィリップス」「ハンガーゲーム」などの脚本で知られるビリー・レイ(Billy Ray)が監督してリメイクした作品です。
といっても、あの傑作をハリウッドスターを使って撮り直したわけではありません。設定もストーリーも大幅に異なり、ど ちらかというと「瞳の奥の秘密」の名場面を使った本歌取りのような作品です。オリジナル版の完成度の高さには到底及びませんし、オリジナル版の脚本・監督 を務めたフアン・ホセ・カンパネラ(Juan José Campanella)をエグゼクティブ・プロデューサーに配しているのは、一種の名誉職のようなものだと思います。
主役の刑事レイを「それでも夜は明ける」のキウェテル・イジョフォー(Chiwetel Ejiofor)、その上司にあたる検察官クレアを「グレース・オブ・モナコ」ニコール・キッドマン(Nicole Kidman)、レイの同僚ジェス(ジェシカ)を「マネーモンスター」のジュリア・ロバーツ(Julia Roberts)が演じ、大物女優2人の初共演作という点でも注目を集めました。
物語のスタートはWTCテロの翌年の2002年。FBI捜査官のレイがロサンゼルスのテロ対策本部に赴任し、現地のバンピーやシングルマザーのジェスと捜査チームを組みます。その後、身分証の写真撮影に行ったスタジオでエリート検察官のクレアに出会ったレイは彼女に一目惚れ。それに気付いて冷やかすジェス。二人は旧知の間柄のように打ち解けていて、着任したばかりなので写真を撮りにいったと思っていた観客は混乱しますが、以前から捜査官同士の交流があったという設定なのでしょう。
ある日、監視対象であるアル・アンカラ・モスクの隣の駐車場で他殺体が発見されます。そしてゴミ箱に打ち捨てられた被害者を見たレイは、それがジェスの一人娘だと気付いて言葉を失います。
暴行して殺した後、証拠隠滅のために漂白剤を注いでいるので計画的な犯行だろうという捜査官からの説明。それが犯人捜しの重要な鍵になるのですが、まだ発見されたばかりで検死もしていないのに、なぜ体内の状態までわかるのかと突っ込んでも仕方ありません。ここでは、犯人は以前から被害者を知っていた人物ということが何よりも大切です。
オリジナル版と同様、被害者の生前の写真を調べていて、彼女に特別な視線を向けている男の存在に気付くレイ。
目つきだけで嫌疑をかけることに上層部は難色を示しますが、レイはバンピーを伴って強引に捜査を進め、取り調べ時のクレアの機転(これもオリジナル版と同じ)もあって、容疑者から自白を引き出します。しかし捜査本部内の事情で、容疑者は釈放され、それに嫌気がさしたレイはFBIをやめて民間の警備員になってしまいます。
といってもレイは事件解決を諦めたわけではありませんでした。13年間にわたって毎晩パソコンで出所する受刑者の写真をチェックしていたのです。そしてとうとう、あの容疑者と思われる人物を発見し、クレアを訪ねて改めて捜査して欲しいと頼み込みます。もちろん、無理な願いなのですが、それでも、彼の執念と周囲の協力で元受刑者に迫っていき、驚きの真実が明らかになります。
過去の出来事をフラッシュバックさせながら、二つの時代を行ったり来たりする映画なのですが、問題なのは、ニコール・キッドマンの髪型が違うくらいで、あまり13年の時間を感じさせるものがないこと。ぼんやり観ていると、事件が起こった当時の場面なのか、現代の場面なのか、わからなくなるという難点があります。
しかしそれよりも問題なのは脚本の拙さで、上に記したような粗が目立つだけでなく、展開がかなり強引です。たとえばオリジナル版にもあった検事と刑事の淡いロマンス。エリートの女性検事と現場たたき上げの男性刑事が互いに惹かれ合いながら、格差ゆえに気持ちを伝えられなかったという話なのですが、その心境に至る経緯にまったく触れません。急に取って付けたように「実は……」という展開になって観客は唖然とさせられます。
そして、ニコール・キッドマン。育ちの良いエリート=上品というイメージなのでしょうが、上品さは良いとしても、知性や理性が心の中の壁になっているという人物像を演じるのは無理があるような気がしました。殺人やテロを扱う生々しい現場に、ふわふわしたお嬢様が間違って配属されてきたような印象。彼女の意見が通らないのは、女性軽視というより、単に世間知らずのわがまま娘だと思われたから、と感じてしまいます。
ということで、細かいことを気にするとキリがありませんが、気軽にインフライトムービなどで2大女優の共演、特に最近あまりドタバタしなくなったジュリア・ロバーツの熱演を楽しむにはちょうど良い作品かも知れません。
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シークレットアイズ(Secret in Their Eyes)
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