ウェス・アンダーソン(Wes Anderson)監督の最新作です。このブログでも「ムーンライズ・キングダム」「グランド・ブダペスト・ホテル」「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊」をご紹介していますが、独特の世界観というか様式というか、寓話性と色彩感覚の打ち出しが次第に強力になってきたように思います。
そういう意味でこの「アステロイド・シティ」は非常にウェス・アンダーソン的です。まるで自らのスタイルを模倣してデフォルメしたような作品で、もしかするとアイロニックなパロディなのか、と訝しんでしまうほど。
物語は単純で、宇宙科学賞をに選ばれた天才少年・少女たちとその家族が授賞式が行われる会場に集まっていると、円盤状の飛行物体が飛来して宇宙人が降りてくるというもの。宇宙人が現れたことで町が封鎖され、天才少年・少女たちとそれぞれの家族の物語が展開します。
それに対して構造は複雑です。上記の物語はステージ上で行われる芝居で、観客はそれを創り上げた舞台監督を紹介するテレビ番組の一部分として見る形になります。つまり、まずTV番組の枠組みがあり、そこで紹介される芝居のバックステージをとらえたドキュメンタリー映像があり、その中で演じられる舞台劇があるという三層構造になっているのです。

何故これほどややこしい仕組みにしたのか疑問ですが、ステージ上で行われる芝居、つまり砂漠の町に集まった人たちのドラマを見る限り、これまでのウェス・アンダーソン作品と同じく、特徴的なモチーフの数々と常連俳優を散りばめた明るい映画に仕上がっています。

芝居の舞台は1955年のアステロイド・シティ。人口わずか87人の砂漠の町ですが、紀元前3007年9月23日に隕石が衝突してできたクレーターが唯一の観光資源(Arid Plains Meteorite)であり、その記念日であるアステロイド・デイに子どもの宇宙科学賞の授賞式(Junior Stargazer/Space Cadet convention)が開かれます。ちなみにSpace Cadetはダブル・ミーニングでしょうね。
招待された今年の受賞者は5人の天才少年・少女たち。戦場カメラマンであるオーギー・スティーンベックは、受賞者である十代の息子ウッドロウと幼い娘3人と共にアステロイド・シティに到着します。しかし車が故障してしまい、義父スタンリーに電話して娘たちを迎えに来てくれるように頼みます。
実はオーギー、妻が亡くなったことをいまだ子どもたちに告げられず、早く話すようにスタンリーから責められていることもあって、義父との関係は微妙です。それでもスタンリーは渋々承知してアステロイド・シティに向かいます。
スティーンベック一家がダイナーにはいると、ハリウッド俳優のミッジ・キャンベルと娘のダイナがいて、オーギーがカメラを向けたことで一悶着あって知り合いになります。
芝居の中ではオーギーとミッジ、ウッドロウとダイナがそれぞれ親密になっていく過程が描かれるのですが、それはさておき主催者であるギブソン将軍、天文学者のヒッケンルーパー博士、残りの3人の受賞者であるリッキー、クリフォード、シェリーとその家族が次々に到着して式典が始まります。

ところが式典の最中、突然あらわれた宇宙人が隕石を持ち去り、ギブソン将軍は大統領の指示で町を軍の管理下において隔離します。しかし受賞者の天才少年・少女たちが、ヒッケンルーパー博士の装置を使って宇宙人との接触を図ったり、公衆電話をハックして軍の隠蔽工作を学校新聞に伝えたことで全国的なニュースになってしまいます。

映画ではこれと併行して芝居の背景が描かれます。オーギー・スティーンベックを演じることになる俳優ジョーンズ・ホールが、脚本家のコンラッド・アープを訪ねてオーディションが行われたり、ホールが演出家のシューベルト・グリーンと議論したりするのですが、この中で、オーギーの亡くなった妻として出演する予定だったのにその場面がカットされた女優と出会ったりします。
これを50年代風のモノクロTV番組として見せていくわけです。

例にもれず、出演者はとても豪華で、オーギー・スティーンベック役の俳優ジョーンズ・ホールを演じたのは「天才マックスの世界」からの常連俳優ジェイソン・シュワルツマン(Jason Schwartzman)。ハリウッド女優役の俳優メルセデス・フォードを演じたのは「マリッジ・ストーリー」「ジョジョ・ラビット」のスカーレット・ヨハンソン(Scarlett Johansson)で、劇中に「her/世界でひとつの彼女」に絡めたと思われる台詞がでてきます。

オーギーの義父であるスタンリーを演じたのは「エルヴィス」のトム・ハンクス(Tom Hanks)。ギブソン将軍を「パブリック 図書館の奇跡」のジェフリー・ライト(Jeffrey Wright)、ヒッケンルーパー博士を「ヒューマン・ボイス」のティルダ・スウィントン(Tilda Swinton)が演じ、芝居の背景ドキュメンタリーのパートでは、劇作家コンラッド・アープを「マザーレス・ブルックリン」のエドワード・ノートン(Edward Norton)、演出家のシューベルト・グリーンをエイドリアン・ブロディ(Adrien Brody)、演技指導のソルツバーグ・カイテルをウィレム・デフォー(Willem Dafoe)が演じています。

この他、あまり出番のない役を有名俳優が演じているところもいつも通りで、自動車修理工の役でマット・ディロン(Matt Dillon)、モーテルのマネージャー役で「30年後の同窓会」のスティーブ・カレル(Steve Carell)、オーギーの亡くなった妻の役で「バービー」のマーゴット・ロビー(Margot Robbie)が出ています。

なお、芝居の舞台であるアステロイド・シティはアリゾナ州にあるという設定らしく、冒頭と終盤で米国中西部に生息する鳥、ロードランナー(ミチバシリ)が登場しますが、実際のロケ地はマドリード南東部の町チンチョン(Chinchón)だそうです。よく映画のロケ地として使われる町だそうで、この記事によると一行はパラドールを拠点にしたようですね。ロケ地の様子はメイキング映像で見ることができます。
公式サイト
アステロイド・シティ(Asteroid City)
[仕入れ担当]