豪華なキャスティングのミステリー映画です。作りも正統派で、密室殺人が疑われる事件が起こり、その謎をダニエル・クレイグ(Daniel Craig)演じる名探偵ブノワ・ブランが一人で解いていくというもの。クリストファー・プラマー(Christopher Plummer)演じる被害者が莫大な資産をもつミステリー作家、クリス・エヴァンス(Chris Evans)やマイケル・シャノン(Michael Shannon)らが演じる家族全員に動機が認められるあたりも古典的な推理小説を思わせます。
早い段階で死因が判り、謎が解けたかのように見せながら、実はそれが事件の全貌ではなく、もう一皮めくった先に真相があるというこの物語。重要な役割を果たすのが、被害者から信頼され、個人的に雇われていた看護婦のマルタで、嘘をつくと嘔吐してしまうという奇妙な体質のおかげで、登場人物の誰もが疑わしい中、唯一の信頼できる人物です。

対する名探偵役のダニエル・クレイグ。フランス風の役名とは印象が異なる、妙なアクセントの英語を喋ります。終盤で南部訛りだったことが判るのですが、ライアン・ジョンソン(Rian Johnson)監督へのインタビュー記事によると、南部出身者を想定して脚本を書いたので、ミシシッピ出身の歴史家シェルビー・フット(Shelby Foote)の講演をダニエル・クレイグに送って練習してもらったとのこと。マサチューセッツで暮らす裕福な一族との違いを際立たせ、探偵がアウトサイダーであることを明確にしたかったそうです。

なぜ一族とは縁もゆかりもない名探偵が現場にいるのかと言えば、彼の元に札束を添えた匿名の依頼状が送られてきたから。つまり、誰かが真実を暴いて欲しいと願っていて、その真実は依頼人を有利な立場にするものなのです。逆にいえば、現場をみた警察などが推理する真相では依頼人の望みが満たされないわけで、その望みが何なのか、誰がそれを求めているかが謎解きの山場になります。

事件の舞台となる邸宅に隠し扉があったり、成人の孫がいる年配の被害者に老いた母親(誰も年齢を知らないほど高齢)がいたり、トリックの仕掛けも古典的です。犯人の目星も動機も、映画を見慣れている方ならすぐに気付くと思いますが、それでもこの作品が魅力的なのは、映画の丁寧な作り込みと出演者たちの好演のおかげでしょう。

すべての核心となるマルタを演じたのは「ブレードランナー 2049」のジョイ役だったアナ・デ・アルマス(Ana de Armas)。彼女がヒスパニック系であることも大切な要素で、それに絡めて現代的な問題をさりげなく盛り込んでいることも魅力の一つです。

被害者の長女リンダをジェイミー・リー・カーティス(Jamie Lee Curtis)、その夫リチャードをドン・ジョンソン(Don Johnson)、その息子、つまり被害者の孫であるランサムを「ギフテッド」のクリス・エヴァンスが演じていて、三者三様の個性が映画にメリハリをつけます。

その他、次男のウォルト役で「ドリーム ホーム」「ノクターナル・アニマルズ」「シェイプ・オブ・ウォーター」のマイケル・シャノン、その息子ジェイコブ役で「ヴィンセントが教えてくれたこと」のジェイデン・マーテル(Jaeden Martell、旧姓Lieberher)、亡き長男ニールの妻ジョニ役で「500ページの夢の束」のトニ・コレット(Toni Collette)、その娘メグ役でキャサリン・ラングフォード(Katherine Langford)、警官エリオット役で「ショート・ターム」「ゲット・アウト」のキース・スタンフィールド(Keith Stanfield)が出ています。

公式サイト
ナイブズ・アウト(Knives Out)
[仕入れ担当]