ダコタ・ファニング(Dakota Fanning)主演のロードムービーです。彼女が一躍脚光を浴びることになった「アイ・アム・サム」では知的障害を持つ男性の娘役でしたが、本作では彼女自身が自閉症を抱える少女を演じます。先ごろ公開された「オーシャンズ8」では端役のような扱いだった彼女、本作では持ち前の演技力を遺憾なく発揮しています。
自閉症といってもその姿は多様ですが、ダコタ・ファニング演じるウェンディはいわゆる高機能自閉症で、知的能力は低くありません、言語障害もありませんが、コミュニケーションにはやや問題があり、儀式的行動や強い執着心といった症状もあります。その執着の対象というのがスタートレックで、トリヴィア的な知識を語るほかクリンゴン語で会話する場面もあり、そのせいか映画館ではトレッキーらしき観客をちらほら見かけました。
シングルマザーだった母が亡くなり、姉のオードリーと2人暮らしだったウェンディは、オードリーの結婚・妊娠を機に福祉施設で暮らすことになったようです。オードリーは、子どもが生まれたらウェンディの世話をしきれないと考えたわけですが、ウェンディは、十分なお金があり、彼女が自立できれば自宅に連れ帰ってもらえると信じています。
自立については、施設の管理者であるスコッティの助けもあり、自力で日常生活ができるようになったほか、ショッピングモールのシナボン(Cinnabon)でアルバイトできるレベルになっています。今の心配事は、2人が育った実家をオードリーが売り出そうとしていることと、オードリーが産んだルビーにいつ会えるのかということ。
ウェンディの夢はオリジナル版のスタートレック製作で、日々脚本を書き続けています。
ある日、パラマウント映画がスタートレックの脚本を募集していることを知ります。賞金は10万ドル。そのお金があれば、実家を売らないようにオードリーに頼めるかも知れません。
必死で450ページの力作を仕上げるのですが、明日は日曜日でその翌日はプレジデント・デーの祝日だと気づきます。応募規定通りに郵送したら締め切り日に間に合いません。こうなったら自分で届けるしかないということで、福祉施設があるカリフォルニア州オークランドから、パラマウントスタジオがあるハリウッドまで約600kmの1人旅が始まります。
明け方、誰にも気づかれないようにこっそり施設を出るのですが、何しろ1人で街から出るのは初めてですので、いろいろ問題に突き当たります。最初の失敗は可愛がっていた子犬のピートが付いてきてしまい、バッグに隠して長距離バスに乗ったのこと。せっかく乗れたバスでしたが、ピートが車内でオシッコをして途中で降ろされてしまいます。その後も、物盗りに合ったり、車の事故でベーカーズフィールドの病院に担ぎ込まれたりといった困難が続くのですが、そのあたりは観てのお楽しみ。
姉のオードリーを演じたアリス・イヴ(Alice Eve)はロンドン出身の英国人女優。「スター・トレック イントゥ・ダークネス」に出演したこともあるようです。ウェストミンスター・スクール卒業後、ビバリーヒルズ・プレイハウスで演劇を学び、英国に戻ってオックスフォード大学セント・キャサリンズ・カレッジで英語学を修めたという才媛でもあります。
福祉施設の管理者スコッティを演じたのは、「ミュリエルの結婚」の主役をはじめ、「アバウト・ア・ボーイ」のシングルマザー、「イン・ハー・シューズ」でキャメロン・ディアスの姉、「リトル・ミス・サンシャイン」の母親などを演じてきたトニ・コレット(Toni Collette)。この秋公開の評判のホラー「ヘレディタリー」では主役を務めているそうです。
その他、シナボンの同僚ネモ役として「グランド・ブダペスト・ホテル」でボーイ役だったトニー・レヴォロリ(Tony Revolori)や、クリンゴン語を喋る警官役として「LIFE!」でマッチングサイトの顧客担当係だったパットン・オズワルト(Patton Oswalt)が出ています。
子役時代はさまざまな作品で絶賛されていたダコタ・ファニング。ここ最近は妹のエル・ファニングの方が目立っている印象がありましたが、やはり演技力はたいしたものです。これからも本作のタグラインそのまま“Boldly go”で突き進んで欲しいですね。次はレオナルド・ディカプリオやブラッド・ピットが出演する来年公開のタランティーノ作品でしょうか。
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