映画「黄金のアデーレ(Woman in Gold)」

00 第二次大戦中のオーストリアでナチスに収奪された絵画のその後を巡る物語を描いた実話ベースの映画です。監督は「マリリン 7日間の恋」のサイモン・カーティス(Simon Curtis)。主演は「クィーン」のヘレン・ミレン(Helen Mirren)で、このブログでも「テンペスト」「ヒッチコック」「マダム・マロリーと魔法のスパイス」といった主演作をご紹介していますが、本作でも素晴らしい演技をみせてくれます。

先日観た「ミケランジェロ・プロジェクト」もナチスが奪った美術品を取り戻す話でしたが、本作は奪われる当事者がユダヤ人の家族ですから、ユダヤ人迫害の扱いも自然ですし、脚本もしっかり練られた良作です。一枚の絵画を軸に過去と現在を巧みに繋げ、ポイントがぶれることもありません。

オープニングは、金箔をキャンバスに貼る作業をしている手先のクローズアップ。この制作中の絵画が“アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 I ”で映画の原題になっている“The Woman in Gold”はその別名です。

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金箔を貼っているのはグスタフ・クリムト(Gustav Klimt)で、絵画のモデルは、ウィーンの裕福な製糖業者、フェルディナンド・ブロッホ=バウアー(Ferdinand Bloch-Bauer)の妻だったアデーレ(Adele Bloch-Bauer)。本作でヘレン・ミレンが演じるマリア・アルトマン(Maria Altmann)はその姪にあたります。

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物語は、第二次大戦中に姉と共にオーストリアから米国に亡命したマリアが、姉の死後、子どもの頃に可愛がってくれた叔母の肖像画がウィーンのベルヴェデーレ宮殿(Schloss Belvedere)にあるオーストリア絵画館(Österreichische Galerie Belvedere)に所蔵されていると知り、それを取り戻そうとするもの。既に戦後、半生記以上経過していますし、所有者はオーストリア政府ですから、普通ならそのままにしてしまうでしょう。

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映画の中のマリアも、当初は何が何でも取り戻そうという考えではなかったようです。所有権を主張することで、ナチスに与して自分たちを追いやったオーストリアから謝罪を引きだそうとしていた印象です。ですから、国際法や美術品に詳しい弁護士を雇うのではなく、ユダヤ系としての思いを共有できる、同じユダヤ人コミュニティの知人の息子の弁護士ランディ(Randol "Randy" Schoenberg)に頼んだのではないでしょうか。

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しかし、亡命後、初めてオーストリアに渡ったマリアが経験したのは、オーストリア政府のあまりにも官僚的な対応でした。紆余曲折を経て、最終的にマリアの所有権が認められるのですが、このままベルヴェデーレに預けて欲しいという政府の懇願をあっさり拒絶し、米国に肖像画を持ち帰ってしまいます。

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ちなみに、持ち帰った肖像画はエスティローダーの社長だったロナルド・ローダー(Ronald Lauder)に1億3500万ドルで売却され、2006年からニューヨークのノイエ ギャラリー(Neue Galerie)に飾られています。ついでに書けば、エスティローダーの一族もユダヤ系で、ロナルドは2007年から世界ユダヤ人会議(World Jewish Congress)の議長を務めるユダヤ人コミュニティの重鎮です。

この映画では、マリアとランディがオーストリア政府と闘う様子に挟み込みながら、絵画が収奪された状況、つまりナチスに占領され、ユダヤ人たちが迫害されていった戦中の風景を描いていきます。

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たとえば、国中にハーケンクロイツの旗があふれ、ナチスの行軍を熱狂的に迎えるオーストリアの人々、民家に押し入ってホルベインやクリムトの作品や宝飾品を目利きするナチスの親衛隊、アデーレの肖像画に描かれたネックレスがナチスの幹部だったヘルマン・ゲーリングの妻、エミー(Emmy Göring)の首にかかっている様子など、観客をも憤らせるシーンが並びます。

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本作の見どころは、もちろんヘレン・ミレンの演技なのですが、取り巻くキャストもなかなかです。弁護士ランディを演じたのはライアン・レイノルズ(Ryan Reynolds)。アラニス・モリセット、スカーレット・ヨハンソンとの交際後、ブレイク・ライヴリーと結婚したカナダのプレイボーイですね。そしてランディの妻パメラを演じたのはトム・クルーズの元妻ケイティ・ホームズ(Katie Holmes)。

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また、ウィーンで2人をサポートする現地誌の記者フーバータス・チェルニン(Hubertus Czernin)を演じたのは「コッホ先生と僕らの革命」「エヴァ」「誰よりも狙われた男」のダニエル・ブリュール(Daniel Brühl)。それからチョイ役ですが、裁判長役で「恋の選択」のジョナサン・プライス(Jonathan Pryce)も出ています。

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戦中の場面の登場人物では、マリアの母のテレーゼを演じたニーナ・クンツェンドルフ(Nina Kunzendorf)は、「あの日のように抱きしめて」で主人公の従姉妹レネを演じていたドイツ人女優。これまたチョイ役ですが、クリムトを演じていたモーリッツ・ブライプトロイ(Moritz Bleibtreu)は「ソウル・キッチン」のお兄さんを演じていた人。「ラン・ローラ・ラン」や「ルナ・パパ」にも出ていましたね。

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あと、あまり有名ではありませんが、若いころのマリアの夫フリッツとして出ていたマックス・アイアンズ(Max Irons)はジェレミー・アイアンズの次男、女性判事を演じたエリザベス・マクガヴァン(Elizabeth McGovern)はサイモン・カーティス監督の妻です。

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