映画「ミケランジェロ・プロジェクト(The Monuments Men)」

00_2 豪華な出演者が目をひく作品です。知られざる歴史の真実ということで、劇場はそれなりに混んでいましたが、率直に言って、それほど出来のいい作品ではありません。

ジョージ・クルーニー(George Clooney)、マット・デイモン(Matt Damon)、ケイト・ブランシェット(Cate Blanchett)、ビル・マーレイ(Bill Murray)といった人気俳優を観ながら、第二次大戦中、英米はこんなことをしていたのかと驚きに行く作品です。

時代は終戦間際の1944年。ナチス・ドイツの手に落ちた美術品を取り戻すため、ジョージ・クルーニー演じるハーバード大学付属美術館長フランク・ストークスは、ルーズベルト大統領の承認のもと、6人の美術専門家からなるモニュメンツ・メン(Monuments Men)を結成します。

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欧州の戦地に赴いて作戦を遂行するわけですが、マット・デイモン演じるジェームズ・グレンジャーはメトロポリタン美術館のキュレーター、ビル・マーレイ演じるリチャード・キャンベルは建築家といった具合で、誰ひとり本職の軍人はいません。

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英国で軍事訓練を受け、ノルマンディに上陸したモニュメンツ・メンの面々。ストークスたちは撤退していくドイツ軍を追うかたちで東進し、グレンジャーはパリの美術館長を通じて、ジュ・ド・ポーム国立美術館員だったクレール・シモーヌに接触することになります。

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シモーヌはナチス占領下にあったパリで、親衛隊士官ヴィクトール・シュタールの秘書として美術品を管理していた女性。ちなみにモデルは実在の美術館長ローズ・ヴァランで、彼女が書いたノンフィクションはバート・ランカスター主演の「大列車作戦」という映画になっています。

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ナチスが略奪した美術品は膨大な点数でしたが、映画の中では主に「ヘントの祭壇画」と「ミケランジェロの聖母子像」にフォーカスされます。

祭壇画というのは、ベルギー西部ゲント(ヘント:Gent)の聖バーフ大聖堂(Sint Baafskathedraal)所蔵の12枚のパネルで構成される宗教画。以前から何度も盗難に遭ってきた、いわくつきの祭壇画だそうですが、これをナチスが持ち出して岩塩坑に隠していたというエピソードが描かれます。

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一方、聖母子像はベルギー北西部ブルージュ(ブルッヘ:Brugge)の聖母教会(Onze-Lieve-Vrouwekerk)に置かれていたミケランジェロの作品。幼子キリストを膝で挟むように抱いた彫像で、これも奪い返して教会に戻されるのですが、戦後しばらくして教会を訪ねる老いたストークスを演じているニック・クルーニー(Nick Clooney)は、ジョージ・クルーニーのお父さんです。似てないので誰だかわからないと思いますが、米国ではよく知られたニュースキャスターだそう。

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これら奪われた美術品を次々と見つけ出していくのですが、残念なのは、サスペンスでありながら、話を引っ張らないところ。スリリングな展開を期待していると、あっという間に解決して肩すかしをくらいます。セットもしっかり作り込まれていますし、ひとつひとつのシーンは良いと思うのですが、組み立てが乱暴で展開が強引過ぎて感情移入できません。おそらく、描きたいエピソードを盛り込むことを重視するあまり、流れが二の次になったのでしょう。

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たとえば、ユストゥス・フォン・ドホナーニ(Justus von Dohnányi)演じるシュタールが捕らえられ、唐突にユダヤ人蔑視の発言をするシーンがあります。それに対してクルーニー演じるストークスが、ニューヨークのユダヤ人と自分がいかに親しいか延々と語るのですが、前後との繋がりがないので非常に違和感があります。それがユダヤ系が多いハリウッド映画界への配慮、ナチスを扱うときの“お約束”だとしても、キリスト教会から盗まれた美術品を軸に展開させながら、そこに持っていくのは無理があります。

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また、モニュメンツ・メンは寄せ集めのチームですので、人間関係の難しさのようなものがあっても良さそうですが、そういった人間ドラマもありません。出演者全員がクルーニーのお友だちのせいか、初めからみんな仲良し。戦死者が出ても、どこか和気藹々としていて、戦場らしい緊迫感がないことも、気持ちが引き込まれない理由だと思います。

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ということで全体としてはイマイチですが、彼らの敵国だった日本人として観ると、別の観点でいろいろ感じるものがあります。

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たとえば、米軍は前線基地にもシャワー用のテントがあって、雪が降っていてもたっぷり温水が使えます。また、クリスマスには家族からの小包が届けられ、中にはチーズやお菓子が入っていて優雅なものです。日本軍はといえば、補給線を断たれ、南方戦線の将兵が餓死していた頃ですよね。同じ前線でもずいぶんと違うものだと思いました。

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