南フランスの風光明媚な街を舞台に、「ヒッチコック」等の名女優ヘレン・ミレン(Helen Mirren)と「ぼくの国、パパの国」等のインドの名優オム・プリ(Om Puri)が共演した本作。
原作はほぼ無名のリチャード・C・モレイスの同名小説ですが、製作陣にスティーブン・スピルバーグとオプラ・ウィンフリーが加わり、監督に「ショコラ」のラッセ・ハルストレム(Lasse Hallström)を起用したディズニー映画ですので、どなたにもお勧めできる一本に仕上がっています。
ムンバイで営んでいたレストランが政治暴動で焼失し、英国に移住したカダム家が、英国には死んだ野菜しかないということでフランスに渡ってインド料理店を開くところから始まるこの物語。
当初は、通りを挟んだ向かいにある格式が高いレストランのオーナー、ヘレン・ミレン演じるマダム・マロリーと、オム・プリ演じるカダム家のパパが対立するのですが、次男の調理人、ハッサンの料理に対する情熱と才能を通じて次第に心通わせていきます。
そのハッサンを演じたのはマニッシュ・ダヤル(Manish Dayal)という若手俳優。「イヴ・サンローラン」でも上昇志向の強いヴィクトワールを演じていたシャルロット・ルボン(Charlotte Le Bon)がハッサンと惹かれ合う勝ち気な調理人、マルグリットを演じていている他、懐かしのミシェル・ブラン(Michel Blanc)が市長の役で出ているのも気が利いてます。
もちろん見どころは随所で登場する食べ物の数々。カダム家が営むレストラン・ムンバイでハッサンが作るインド料理や、マダム・マロリーのレストラン"Le Saule Pleureur"で供されるフランス料理だけでなく、市場に並べられた南フランスの野菜の瑞々しさにも見とれてしまいます。
調理シーンもふんだんに登場し、マダムの店のスーシェフであるマルグリットから料理書を貰ったハッサンがオランデーズソースを作るシーンなど、お腹が空いているときに観ると危険な感じです。ちなみに、このとき5種の基本ソースとして、ベシャメル、エスパニョール、オランデーズ、ヴルーテ、トマトソースを挙げていますので、マルグリットが渡した古めかしい本はエスコフィエの料理書ではないかと思います。
そんなわけで、ハッサンのサクセスストーリーを心地良く楽しませてくれる明るい映画なのですが、映画の奥行きを深める隠し味として、政治的な暴力や移民の問題をやんわり取りあげているあたりも、プロデューサーにオプラ・ウィンフリーが加わっている所以でしょう。
また、そういったセンシティブなネタを、オム・プリ演じるパパのキャラクターで笑いに変えてしまうところも魅力です。たとえば、成功したハッサンがパリのレストラン(ロケ場所はポンピドーセンターのle Georges)に招聘され、el celler de can roca風の黒いユニフォーム姿で雑誌に載るのですが、それを見たパパはひと言「テロリストみたいだな」。
ということで、シンプルなストーリーながら、ハリウッド映画らしくセリフの端々まで行き届いていて、最後まで気持ち良く楽しめる映画です。モナドがイベント出店している池袋でも上映されていますので、お出かけのついでにご覧になってみてください。
公式サイト
マダム・マロリーと魔法のスパイス(The Hundred-Foot Journey)
[仕入れ担当]