映画「キングスマン ファースト・エージェント(The King's Man)」

TheKingsMan 第1作目の「キングスマン」が大ヒットして調子に乗りすぎたか、続編の「キングスマン:ゴールデン・サークル」は制作費を増額したにもかかわらず前作の興収に届かなかったこのシリーズ。2作目がひどかったので3作目はパスするつもりでしたが、前作とは大きく趣向を変えた歴史ものというので、ものは試しと観に行ってみました。

確かに、下品な悪ふざけが鼻についた2作目とは正反対の生真面目さが目立ちます。そもそも「キングスマン」が英国スパイものの基本形をひとひねりした作品でしたので、真面目すぎるとそれも1つのジョークかと勘ぐりたくなりますが、結論をいえば最後まで徹頭徹尾、反戦思想を持つ貴族のノブレスオブリージュを打ち出した作品でした。

とはいえ、このシリーズの特徴は英国風のウィットと派手なアクションにありますので、そのあたりはしっかり踏襲しています。2014年公開の「キングスマン」では1960年生まれのコリン・ファースが奮闘していましたが、2021年公開の本作では1962年生まれのレイフ・ファインズ(Ralph Fiennes)が頑張ります。撮影時の年齢は概ね5歳ほど違いますが、コリン・ファースに負けず劣らずのアクションだったと思います。

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内容はといえば「キングスマン」の前日譚というか、サヴィル・ロウ11番地の仕立屋キングスマンを拠点とする秘密結社がいかにして生まれたか、その成立秘話を描いたもの。第一次世界大戦時の史実をベースに、レイフ・ファインズ演じるオックスフォード公オーランドとその息子コンラッドの親子の物語を描いていきます。ちなみにこの公爵家は架空のもので、オックスフォードと称する貴族は伯爵家しかないようです。

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映画の幕開けは1902年、ボーア戦争時のアフリカ。軍人としてヴィクトリア十字章を授与される殊勲を立てながら、植民地戦争の嘘くささに嫌気が指し、退役後は赤十字の活動に従事していたオーランドは、救援物資を届けるため、妻エミリーと一人息子コンラッドと共に現地の収容所を訪れます。しかし、オーランドが司令官キッチナーと面会している最中にボーア人の攻撃を受け、エミリーを失うことになります。ゲートの外にいたコンラッドが、執事ショーラの機転で助かったのが不幸中の幸いです。

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それから12年後の1914年。18歳になったコンラッドは英国軍に入隊して祖国のために戦いたいと希望しますが、父のオーランドが許しません。国のために命を投げ出すという考えの幼さを戒めます。

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しかし戦争の影は迫っています。旧友であるフランツ・フェルディナンド大公を護衛して欲しいと頼まれたオーランドはコンラッドを伴ってサラエボに赴きます。大公の馬車に同乗していたコンラッドが沿道から放られた手榴弾をはじき返して一難を逃れますが、その後、カフェから狙撃したガヴリロ・プリンツィプの凶弾に大公夫妻は斃れます。いわゆるサラエボ事件ですね。ここから大戦に拡大していくわけですが、その裏にオックスフォード公爵の父子が係わっていたという設定です。

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戦争の予兆を感じたオーランドはオックスフォード家のメイド、ポリー・ワトキンズに依頼して、秘密裏に世界的なメイドの情報網を構築します。その諜報活動で知ったのは、ロシア皇帝ニコライ2世の顧問である怪僧ラスプーチンがロシア政権をコントロールしていることで、それを軍のキッチナーに伝えたところ、彼が乗船したロシア行きの軍艦が撃沈されて戦死してしまいます。

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そこで彼らがとった次の手は、コンラッドの従兄弟であるフェリックス・ユスポフの招きでロシアの宮中パーティに出席し、そこでラスプーチンと対決するというもの。史実としてはフェリックス・ユスポフたちが暗殺したことになっているそうですが、映画ではオーランドとコンラッドが大立ち回りを演じた後、ショーラとポリーの活躍でラスプーチンを葬り去ることになります。

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ここが序盤の見どころで、ラスプーチン演じたリス・エヴァンス(Rhys Ifans)が醸し出す奇っ怪な雰囲気だけでなく、独特なダンスやレイフ・ファインズとの言葉の応酬、そして死闘に至るまで、ここで出番が終わってしまうのが惜しいくらいの存在感です。

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その後、19歳になったコンラッドは自らの意思で近衛歩兵連隊(Grenadier Guards)に入隊してドイツ戦線に送られます。オーランドはジョージ5世に働きかけてコンラッドを英国内に呼び戻そうとしますが、彼はアーチー・リード軍曹を身代わりに帰還させ、自らは歩兵(Black Watch)の一員として最前線の塹壕で戦うことを選びます。

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コンラッドは歴史的な快挙を成し遂げた後、誤解によって残念な結果になるのですが、リード軍曹に持たせた父親宛の手紙の中で彼をランスロットというコードネームで呼んだことが後々の展開に繋がってきます。といっても観客からみれば、リード軍曹をアーロン・テイラー=ジョンソン(Aaron Taylor-Johnson)が演じていることから、ただ帰ってくるだけの役ではないとすぐ気付いてしまうのですが……。

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そういう意味では、実在の人物であるキッチナーをチャールズ・ダンス(Charles Dance)が演じているのは良いとしても、その架空の部下モートンをマシュー・グード(Matthew Goode)が演じているのも、これまた実在の人物ですがドイツの預言者/手品師のエリック・ヤン・ハヌッセンをダニエル・ブリュール(Daniel Brühl)が演じているのも、これらが単純な役でないと気付かせてしまうキャスティングかも知れません。

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その他の有名どころでは、メイドのポリー役で「アンコール!!」「人生はシネマティック!」のジェマ・アータートン(Gemma Arterton)、執事のショーラ役で「テンペスト」でキャリバンを演じていたジャイモン・フンスー(Djimon Hounsou)、従兄弟同士であるジョージ5世、ヴィルヘルム2世、ニコライ2世を一人三役で「ボヘミアン・ラプソディ」「プライベート・ウォー」のトム・ホランダー(Tom Hollander)、米国大使役で「スーパーノヴァ」のスタンリー・トゥッチ(Stanley Tucci)が出ています。

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商売熱心なマシュー・ヴォーン( Matthew Vaughn)監督らしく、エンディングでは次作を匂わせていましたので、もしかすると第二次大戦ネタで構想を練っているのかも知れません。その場合は今回は端役だった二人のドイツ人俳優、「リスボンに誘われて」のアウグスト・ディール(August Diehl)と「バルーン 奇蹟の脱出飛行」のデビッド・クロス(David Kross)が活躍することになるのでしょう。

公式サイト
キングスマン ファースト・エージェントThe King’s Man

[仕入れ担当]