映画「ペトラは静かに対峙する(Petra)」

petra このところ活躍の場を広げているバルバラ・レニー(Bárbara Lennie)。「私が、生きる肌」の頃はほぼ無名でしたが、ゴヤ賞を獲った「マジカル・ガール」、ガウディ賞を獲った「エル・ニーニョ(邦題:ザ・トランスポーター)」で知名度が急上昇し、アルゼンチンのディエゴ・レルマン監督「家族のように」では主役、イランのアスガー・ファルハディ監督「誰もがそれを知っている」でも重要な役を務めていました。

その彼女が主演した本作はカタルーニャ出身の監督、ハイメ・ロサレス (Jaime Rosales)の第6作目。さまざまな映画祭で高く評価されている監督ですが、おそらく日本では初公開作になると思います。撮影監督は「アニエスの浜辺」「幸福なラザロ」のエレーヌ・ルヴァール(Hélène Louvart)で、彼女ならではのオーガニックな映像も一見の価値ありです。

物語は、バルバラ・レニー演じるペトラが自分のルーツを探ろうとして、重層的なウソを抱えた家族の因果に巻き込まれていくというもの。章立てになった映画ですが、始まりは第2章、続く第3章の後に第1章と、時間軸を行き来しながら展開します。

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幕開けは画家のペトラが、カタルーニャの彫刻家、ジャウメ・ナヴァロの邸宅にやってくる場面。目的は彼のアトリエでの制作活動で、一種のアーティスト・イン・レジデンスです。まずキッチンで家政婦のテレサと会話し、ダイニングでジャウメの妻マリサと会います。そしてジャウメの息子ルカスと会うのですが、彼だけは別棟で暮らしていて、次第にその理由がわかってきます。要するに父子の仲が悪いのです。

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ルカスはスペイン内戦の墓を撮っている写真家。しかし同じ芸術家とはいえ、知名度はスペインを代表する彫刻家である父の足元にも及びませんし、収入も無いに等しく、成功した父親に寄生している状態です。これまでも何度か家を出ては、結局、戻ってきてここで暮らしているようです。

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同世代のペトラとルカスは次第に親しくなっていきます。互いに心を許しているようにも見えますが、ルカスに迫られたペトラはきっぱり拒絶します。なぜかといえば、ジャウメが自分の父親なのではないかと疑っているから。もしそうなら、ルカスは血の繋がった兄弟ということになります。

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ペトラの母はシングルマザーで、死ぬまでペトラの父親が誰か明かしませんでした。しかし彼女の死後、叔母から聞いた当時の母親の交友関係を探り、相手がジャウメだったのではないかと推測。事実を知るため、生まれ育ったマドリードからカタルーニャの海辺の町、ジローナ県エンポルダ(Alt Empordà)に赴いてきたのです。

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ある日ルカスは、家政婦テレサの夫であるフアンホから、息子のパウを助手として雇ってくれないかと相談されます。おそらくこのような田舎町では良い職にありつけないのでしょう。パウとは昔からの友人でもあり、ルカスは父親に頼み込んでみます。するとジャウメは“自分の息子のことなのだからテレサが直接くるのがスジだ”と言い放ちます。

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それを聞いたテレサは、自らジャウメに頼みに行くのですが、その直後、崖から身を投げて自殺してしまいます。彼女の死が引き金となったかのように、ナヴァロ家の醜い過去が悲劇を呼び起こし、ペトラたちの人生を大きく揺さぶっていくことになります。

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ルカスを演じたアレックス・ブレンデミュール(Àlex Brendemühl)は「しあわせな人生の選択」「ローマ法王になる日まで」「未来を乗り換えた男」などに出演しているバルセロナ出身の俳優。またジャウメの妻マリサ役のマリサ・パレデス(Marisa Paredes)はアルモドバル作品の常連女優で、「私が、生きる肌」では物語の軸となる家政婦を演じていました。

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そしてこの古典的ともいえる悲劇の根源であり、邪悪な心の塊であるジャウメを演じたのは、本作が初出演というジョアン・ボテイ(Joan Botey)。元々はエンジニアで、本作のロケ地となった広大な土地のオーナーだそうです。エンポルダはダリで有名なフィゲラスがある自治体ですので、アーティストが暮らすイメージがあってロケ地に選ばれたのかも知れません。

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スペインの美しい風景と、ウソで塗り固められた人々のコントラストが印象的な映画です。エンポルダからマドリードに戻ったペトラが後に暮らし始めるブイトラゴ(Buitrago del Lozoya)の映像を含め、さまざまな場面で大地や水といった自然の美しさが効果的に使われています。ちなみにブイトラゴの町には、ピカソの理髪師であり長年の友人だったエウへニオ・アリアス(Eugenio Arias Herranz)が作品などを寄付した小さなピカソ美術館(Museo Picasso de Buitrago)があります。

公式サイト
ペトラは静かに対峙する

[仕入れ担当]