映画「輝ける人生(Finding Your Feet)」

00 こういう気軽な映画も良いものですね。夫の浮気を知った初老の女性が、家を出て姉と暮らし始め、姉の仲間やダンスを通じて違った生き方を見つけていくというストーリー。概ね想像通りに展開しますので、ある意味、安心して観ていられます。英国老人の日常生活を眺めながら、芸達者なベテラン俳優の演技を楽しむ映画です。

映画の出だしは、ロンドン近郊イズリントンの瀟洒な邸宅で、ナイトの称号を授与されたマイク・アボットがお披露目パーティを開いている場面。警察署長を勇退した地元名士らしく、妻サンドラの貢献を讃えるスピーチをしますが、その舌の根の乾かぬうちにサンドラの友人と浮気をしています。それを知ったサンドラが家を飛び出し、公営住宅で暮らす姉エリザベス、通称ビフの部屋に転がり込んだところから物語のスタートです。

妹のサンドラは名士の妻として間違いのない、平穏無事な暮らしをしてきましたが、姉のビフは正反対で、以前は反体制活動に勤しみ、今も気ままな独身生活を謳歌しています。サンドラを受け入れてすぐに黒人のボーイフレンドとの関係が描かれますし、後半では恋愛対象は男性に限らないといった話まで出てくるような根っからの自由人です。

09

そんなビフの楽しみはハムステッドヒースの池(Mixed Bathing Pond)で泳いだり、老人向けのダンス教室で踊ること。ハムステッドといえば先日観た「ロンドン、人生はじめます」にも出てきましたが、その前作にあたる「ニューヨーク、眺めのいい部屋売ります」の監督リチャード・ロンクレイン(Richard Loncraine)が本作の監督です。

03

ビフの部屋で暮らし始めた当初、まだ名士の妻のノリが抜けないサンドラが、自己紹介で“レディ・アボット”と名乗るあたりから話の全貌が見えてきます。つまり、誰かに従属する立場だった彼女が、独り立ち(Finding Your Feet)していくのです。また、そのロールモデルでありメンターであるビフとの関係も変化していき、疎遠にしていた姉妹の絆を再確認することになります。

04

その契機となるのがクリスマスのチャリティ活動として路上でダンスを披露したこと。お揃いのTシャツに記されたキャッチフレーズ“Love Later Life”が良い感じですね。ということでこの映画、実はクリスマスムービーです。夢を潰えさせるようなことはありません。

05

主人公のサンドラを演じたのは、私生活ではOBEのイメルダ・スタウントン(Imelda Staunton)。「ヴェラ・ドレイク」での名演で知られる英国のベテラン女優です。このブログで取りあげた映画でいうと「ウッドストックがやってくる!」で主人公の母親、「家族の庭」でジェリーの患者、「パレードへようこそ」で炭坑側の福祉委員長を演じ、重要な脇役として作品を支えていました。

02

そして姉のビフ役のセリア・イムリー(Celia Imrie)は「マリーゴールド・ホテル」シリーズで恋多き女マッジを演じていた人。つい最近も「マンマ・ミーア!ヒア・ウィー・ゴー」でドナが卒業したニュースクールの学部長を演じ、歌って踊って見せていました。

15

ビフのダンス仲間の男性チャーリーを演じたのは、「英国王のスピーチ」でチャーチル、「ジンジャーの朝」でマーク司祭、「ターナー、光に愛を求めて」で主役を演じていた名優ティモシー・スポール(Timothy Spall)。もう1人の男性テッドを演じたデヴィッド・ハイマン(David Hayman)は「ハリー・ポッター」シリーズのプロデューサーとして有名ですが、その昔は「シド・アンド・ナンシー」でマルコム・マクラーレンを演じていたれっきとした俳優です。

06

ダンス仲間のわけあり女性ジャッキーを演じたジョアンナ・ラムレイ(Joanna Lumley)は「ウルフ・オブ・ウォールストリート」のエマおばさんだった人で、本作でも“Surely becoming a free woman is better than being a kept lady”というセリフを語ってこの映画の本質を伝えます。

07

こういった名優たちの個性的な演技のおかげで、他愛ないストーリーにもかかわらず、なかなか味わい深い作品になっています。ロンドンのピカデリー・サーカスやソーホーの他、ローマのトレヴィの泉やナヴォーナ広場など観光旅行でお馴染みの場所がいくつも出てきますので、インフライトムービーでご覧になるのも良いでしょう。

公式サイト
輝ける人生Finding Your Feet

[仕入れ担当]