といっても単独受賞ではなく、クリスティアン・ムンジウ監督「エリザのために」とタイということでしたが、オリヴィエ・アサイヤス(Olivier Assayas)監督としては「感傷的な運命」「デーモンラヴァー」「クリーン」「アクトレス」に続く5度目のノミネートで初の受賞ということになります。ちなみに審査員長はジョージ・ミラー監督、パルム・ドールはケン・ローチ監督「わたしは、ダニエル・ブレイク」でした。
アサイヤス監督の作品はこのブログでも近作の「カルロス」と「アクトレス」をご紹介していますが、本作はこれらとはかなり趣の異なる作品です。
まず、物語の一つの軸になっているのがミステリーであること。ネタを明かしてしまえば、映画の中盤で殺人事件が起こるのですが、その謎解きがポイントになっています。そしてもう一つ、これはこの監督の新機軸といった印象ですが、映画のベースがホラーであること。クリステン・スチュワート(Kristen Stewart)演じる主人公モウリーンは霊能力者(medium)だという設定なのです。
映画の幕開けは、郊外の荒れた屋敷に2人の女性が乗った車が到着するシーン。1人はモウリーン、もう1人は亡くなったばかりの双子の兄ルイスの妻、つまりモウリーンの義姉であるララです。そこはルイスとララが暮らしていた家なのですが、なぜかララは残らず、モウリーンを残して去ってしまいます。
実はララ、この屋敷を売り払う交渉中で、既に買い手も見つかっています。しかし、モウリーンと同じく霊能力者だったルイスの霊が還ってきている可能性があり、それをモウリーンが確かめにきたのです。
そしてその晩、超常現象が起こります。観客は“アサイヤス監督だから”と思って観ているわけですから、ホラーな展開に戸惑いながらも、モウリーンの夢だったとか、その手の着地点を期待してしまうところでしょう。
しかしこのホラー路線は最後まで続き、ラップ現象どころかポルターガイストやエクトプラズムまで登場します。ある意味、観客が試される映画です。
モウリーンの職業は題名通りのパーソナル・ショッパー。セレブのキーラに替わって買物をしてあげる仕事です。といっても食料品や日用品ではなく、服や装飾品をみつくろって入手してくる役目。センスも問われますし、信頼関係も必要です。
本作はシャネルとカルティエの協力を得ている他、下の写真でルブタンのショッピングバッグが見えているように、さまざまな高級店に出入りしてフォーブルサントノレをスクーターで疾走します。
キーラの自宅は16区の高級住宅街ですが、モウリーンの自宅は北駅や東駅があるエリアのようです。後半の重要なロケーションとして、レピュブリック(République)のクラウンプラザ・ホテルが登場しますが、これはモウリーンの自宅からの近さを考慮して、そういう設定にしたのだと思います。
キーラを演じたノラ・フォン・ヴァルトシュテッテン(Nora von Waldstätten)は「カルロス」「アクトレス」にも出ていたアサイヤス作品の常連女優。またキーラの恋人役インゴを演じたラース・アイディンガー(Lars Eidinger)も「アクトレス」に出ていました。
ついでながら、撮影もずっとアサイヤス作品を撮ってきたヨリック・ル・ソー(Yorick Le Saux)で、その映像美は「ミラノ、愛に生きる」「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ」「胸騒ぎのシチリア」といった作品でも味わうことができます。
と、いろいろ書きましたが、この作品の見どころは何と言ってもクリステン・スチュワートです。心霊現象や怪事件におびやかされる演技もさることながら、ハリウッド系には珍しい脱ぎっぷりも特筆ものでしょう。アサイヤス監督の前作「アクトレス」で、米国出身女優として初めてセザール賞を獲っていますので、気分はフランス女優なのかも知れません。
媒介する存在(medium)から自分本来の姿へ、という切り口で緩く束ねられていますので、ストーリー的に腑に落ちない箇所もありますし、skype や iMessage でのコミュニケーションを多用する作りも好き嫌いが分かれそうですが、クリステン・スチュワートの演技とヨリック・ル・ソーの映像で多少の不満は帳消しにできそうな作品です。個人的には、「イントゥ・ザ・ワイルド」「オン・ザ・ロード」「アリスのままで」「アクトレス」と見てきたクリステン・スチュワートの新境地を堪能できて満足しました。
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パーソナル・ショッパー(Personal Shopper)
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