「しあわせの雨傘」以来6年ぶりのカトリーヌ・ドヌーブ(Catherine Deneuve)主演作、というふれこみの映画ですが、本当の主役は新人男優のロッド・パラド(Rod Paradot)でしょう。不良少年と判事の交流という地味なテーマですので宣伝担当の苦労が滲みます。
しかし、そのつかみの弱さとは裏腹に、実際に観るとリアリティがあって非常に面白い映画です。母親のネグレクトで始まる物語はドイツ映画「ぼくらの家路」を思わせますが、主人公が成長してからはグザヴィエ・ドラン監督「Mommy/マミー」を彷彿させ、登場人物たちのキャラクターが際立つ社会派ドラマが展開します。
主要な登場人物は、カトリーヌ・ドヌーブ演じるフローランス判事、ロッド・パラド演じる不良少年マロニー、サラ・フォレスティエ(Sara Forestier)演じるマロニーの母親セヴェリーヌ、そしてブノワ・マジメル(Benoît Magimel)演じるマロニーの教育係ヤンの4人。最近では、ドヌーブは「神様メール」、マジメルは「最後のマイ・ウェイ」に出ていましたね。サラ・フォレスティエは「ゲンスブールと女たち」でフランス・ギャルを演じていた人です。
物語は6歳のマロニーが保護され、母親セヴェリーヌの親権を制限するか否か判断を下すシーンから始まります。逆上するセヴェリーヌをなだめ、きちんと育児をするように諭す少年係判事のフローランス。しかし、セヴェリーヌの遊び癖は抜けず、放任主義で育てられたマロニーはいっぱしの不良少年に育っていきます。
そして10年後。自動車泥棒で捕まったマロニーがフローランスと再会します。検事は少年院に入れるように主張しますが、フローランスは更正施設で再起を目指させることに決め、それまでの教育係にかわって、かつて不良少年だったヤンを指名します。
もちろん、非行が容易におさまるわけではありません。特に問題なのはマロニーの激情しやすい性格。子どもの頃から母親が放任していたせいか、アンガーマネジメントができないのです。
そんななかで、厚生施設で出会った少女テスと恋に落ちます。母親のセヴェリーヌ、判事のフローランスに次いで信用できる存在を見つけたことで、変化の兆しが見え始めるマロニー。しかし、母親譲りの享楽的な性格は変えられず、飲食店での仕事を放棄したり、なかなか社会適応できません。
ある日、母親が麻薬で逮捕され、弟が児童施設送りになってしまいます。なんとしても弟を取り戻さなくてはならないと思ったマロニーは、またもや非行に手を染めた上、施設から奪った弟に大怪我をさせてしまいます。
逮捕され、裁判所に連行されたマロニーにフローランスはどう対応するか、果たしてマロニーは更正できるのか、という具合に映画は進んでいきます。
物語の軸はマロニーの成長と更正ですので、演じる役者の演技に負うところが多いわけですが、それまで職業訓練学校に通っていた素人だというロッド・パラドの存在感とリアリティに圧倒されます。不良少年でありながら、どんなときも母親の味方であり、判事の意見だけは耳を傾けるという純朴さを持つ少年。その魅力は、映画を観ているうちに、なんとか彼を更正させてあげたいと感情移入し始めてしまうほどです。
そして恋人のテスを演じたディアーヌ・ルーセル(Diane Rouxel)。日本での公開作はありませんが、ラリー・クラーク監督の新作で重要な役を演じるなど活躍を期待されている女優です。これから伸びそうな気配を漂わせていますので、今からチェックしておいても良いかも知れません。
書き忘れていましたが、監督は女優としても活躍しているエマニュエル・ベルコ(Emmanuelle Bercot)。2015年のカンヌ映画祭では、マイウェン監督「Mon roi」で女優賞を受賞(同時受賞が「キャロル」のルーニー・マーラ)しています。ちなみに撮影監督のギョーム・シフマン(Guillaume Schiffman)は監督のパートナーで、「アーティスト」でアカデミー賞にノミネートされた他、「ゲンスブールと女たち 」や「タイピスト!」「あの日の声を探して」の撮影監督を務めた人です。
そんなわけで、一見、地味なようで、その実、かなり見応えのある作品です。ロッド・パラドとディアーヌ・ルーセルの若々しい演技と、カトリーヌ・ドヌーブとブノワ・マジメルの熟練の演技の絶妙なマッチングが楽しめます。
公式サイト
太陽のめざめ(La tête haute)
[仕入れ担当]