アカデミー賞では作品賞、監督賞など5部門で栄冠に輝き、カンヌ映画祭でも主演男優賞を獲得している、おそらく今年一番の話題作だと思います。
この3D全盛の時代に「モノクロのサイレント映画」と聞くと、胡散くさい話題作りではないかと勘ぐりたくなりますが、そんなことは全然なくて、ヨーロッパ映画的な雰囲気と、ハリウッド映画的な、よく練り上げられた脚本が組み合わさった、満足度の高い映画でした。
監督はフランス人のミシェル・アザナヴィシウス(Michel Hazanavicius)。この監督のこともフランス人プロデューサーのこともよく知りませんが、英米での配給権を持つワインスタイン・カンパニー(Weinstein Company)が関与したことで完成度が上がったようです。
実際、「アーティスト」に登場する映画プロデューサーは、ワインスタイン・カンパニーのハーベイ・ワインスタイン(Harvey Weinstein)をモデルにしたと言われるほど製作に深く係っているそう。雑誌のインタビューでも、本人がそれを認めた上で、タバコは吸うが葉巻は吸わないんだ、と語っていました。
ちなみにワインスタイン・カンパニーは、去年のアカデミー作品賞「英国王のスピーチ」や今年の主演女優賞「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」にも携わっています。
それはさておき、アカデミー主演男優賞を獲ったジャン・デュジャルダン(Jean Dujardin)も、その相手役で監督のパートナーでもあるベレニス・ベジョ(Bérénice Bejo)も、何も語らず、表情と仕草だけで観客を感動させる素晴らしい演技でしたが、やはりフランスでパルムドッグ(Palm Dog)、米国で金の首輪賞(Golden Collar)を獲ったアギー(Uggy)の名演にはびっくりしました。(下の写真は公式Facebookページから)
それから、表面的には非常にシンプルな物語なのに、映画の隅々にまで細かい仕掛けが施されていて、それが後で効いてくるあたりも、うまいなぁと思いました。
たとえば、トーキー映画(talkie= talking picture)の流行に乗れず、妻と語り合うことを避けながら犬とだけ心を通わせていた主人公。映画館で自分のファンが近づいてきたと思ったら単なる愛犬家だったシーンでは、犬を褒める老婦人に“if only he could talk”(無口なヤツでしてね)と応じ、talkに対する屈折した思いを表現します。
また、落ちぶれた主人公が質屋に衣装を持ち込むシーンでは、衣装の価値が認められないで、少ない額しか受け取れないのですが、スターだった時代のクセでチップを置いて店を出ます。
そういう主人公の性格と、相手役の女優の気持ちの強さが、この物語のベースになっているわけですが、何も語らせないサイレント映画だからこそ、こういう仕掛けのひとつひとつが映画の味わい深さに繋がっています。
オーソン・ウェルズ(Orson Welles)監督「市民ケーン」のシーンや、「グランド・ホテル」のグレタ・ガルボ(Greta Garbo)のセリフなど名画からの引用も多数あり、旧い映画が好きな方にもいろいろと楽しめる映画だと思います。
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アーティスト(The Artist)
[仕入れ担当]