ティム・バートン(Tim Burton)監督の最新作です。
この監督の作品というと「チャーリーとチョコレート工場」や「アリス・イン・ワンダーランド」のような独特の世界をイメージしますが、本作は、そういう意味ではティム・バートンっぽくなくて、どちらかというと、ワインスタイン・カンパニーらしい幅広い観客に目配りした作品という印象でした。
描かれるのは、1960年代のアメリカでブームになった一連のアート作品“ビッグ・アイズ”を世に送り出したキーン夫妻の物語。妻マーガレットが描いた作品を夫ウォルターの名前で売り出して大成功するのですが、夫唱婦随で良かったねというお話ではありません。
彼らが生きた時代と、おそらく米国のお国柄もあるのでしょう。女性が前面に出ることが受け入れられにくい社会規範を背景に、本当の作者であるマーガレットが不本意にも裏方に回ってしまった顛末とその後の自立を、主にマーガレットの視点から描いていく作品です。
この“ビッグ・アイズ”と呼ばれる、極端に目を大きく描いた子どもの作品。アンディ・ウォーホルもその魅力を称えたということなのですが、ある種のポップアートなのでしょうね。ポイントは作風そのものより、夫ウォルターのマーケティングにあったようで、ギャラリーで一点ものの絵画を売るだけではなく、印刷されたコピーをスーパーマーケットやガソリンスタンドで売りまくったそうです。
ウォーホルのマスプロダクト的なアプローチを、彼より先に取り入れたキーン夫妻。それというのも、夫ウォルターにしてみれば、作者を名乗っているだけで、自分が創造していませんので、作品には何の思い入れもありません。妻マーガレットがファクトリー的な部屋に閉じこもって生産した商材でしかなく、それを効率良く収益化しようと思えば、大量生産・大量消費の流れにのせるのが手っ取り早いわけです。
その商売上手、悪く言えば詐欺師のような夫ウォルターを演じたのが、「おとなのけんか」でケイト・ウィンスレットの夫=弁護士を演じていたクリストフ・ヴァルツ(Christoph Waltz)。これが嘘くささといい、浮薄さといい、ばっちりのはまり役です。ゴールデングローブ賞はノミネートのみ、アカデミー賞にはノミネートすらされていませんが、もう少し評価されても良いと思います。
そして妻のマーガレットを演じて、見事、「アメリカン・ハッスル」に続く2年連続のゴールデングローブ賞に輝いたのが、「ザ・ファイター」「ザ・マスター」「オン・ザ・ロード」「her/世界でひとつの彼女」のエイミー・アダムス(Amy Adams)。
簡単に洗脳されてしまう純真さや愚かさと、生き抜いていくために不利な状況に耐えてしまう強さが共存するアンバランスなマーガレットを巧みに演じています。
また「アンコール!!」で頑固爺を好演したテレンス・スタンプ(Terence Stamp)や、「声をかくす人」で検事を演じたダニー・ヒューストン(Danny Huston)といった渋い配役も魅力です。
ちなみにマーガレット・キーン(Margaret Keane)は80代となった今もご健在で(下の写真)、サンフランシスコで自らの作品を売るギャラリーを経営しています。ウェブストアもあって、ポスターで使われている作品“THE FIRST GRAIL”のジクレープリントが600ドル。映画とは違い、結構やり手ですね。ティム・バートン監督も、ヘレナ・ボナム=カーター(年末に別れてしまいましたが)と愛犬のチワワが描かれたオリジナル作品を持っているそうです。
[仕入れ担当]