映画「おとなのけんか(Carnage)」

Carnage0 封切り直後に観たまま、書こう書こうと思いながら今になってしまいました。東京では来週末あたりで終わってしまいそうですが、ビデオで観ても十分に楽しめる映画だと思いますので、ご紹介しておきます。

監督は、去年公開の「ゴーストライター」が記憶に新しいロマン・ポランスキー(Roman Polanski)。原作はフランス人のヤスミナ・レザ(Yasmina Reza)。彼女の戯曲「Le Dieu du carnage(≒殺戮の神)」がフランスで評判を呼び、英米で「God of Carnage」として上演されて、米国では2009年のトニー賞を受賞。それを原作者の脚本でポランスキーが映画化したものです。

映画は舞台劇そのもので、登場人物は4人だけ、場所も舞台となるアパートの1室の他は、その廊下がエレベータ前まで出てくるだけ。設定はブルックリンのアパートなのですが、ポランスキーは米国に入国すれば捕まってしまう人ですから、パリのスタジオ内にセットを組み、キッチンの食材等はすべてNYから運んで撮ったそう。

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ストーリーは単純です。子どもが他の子ども棒で叩いて怪我をさせてしまい、怪我をさせられた側の両親を、叩いた側の両親が訪問して、親同士で話し合うというもの。

ただ、この2組の夫婦の設定が絶妙で、社会のひずみのようなものと各人のエゴがむき出しになり、話し合いがぐちゃぐちゃになっていきます。

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被害者側は上の写真の2人。父親は金物屋を経営している商人、母親はアフリカの現状を憂う社会活動家という、いわば庶民です。対する加害者側は、父親が弁護士で、母親が投資ブローカーというエリート。

この社会活動家をジョディ・フォスター(Jodie Foster)、投資ブローカーをケイト・ウィンスレット(Kate Winslet)が演じており、ストーリー上だけでなく、演技の上でも2人の実力派女優が激突する感じです。

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話を面白くしているのが、怪我をさせた側の父親が、製薬会社の顧問弁護士として医薬品訴訟に係っていて、彼の携帯電話に頻繁に電話がかかってきては4人の話し合いを中断させるところ。

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もちろん電話の内容は、どうやって製薬会社の責任を回避するかということですから、金物屋と社会活動家の夫婦の立ち位置からは、それだけでも十分に不愉快です。

最初は大人同士の冷静な話し合いを目指していた4人でしたが、こういったさまざまな仕掛けが作用し合って、社会的な不満から、子育てに関する夫婦間の不満まで、いろいろな不満が噴き出してきます。

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脚本の面白さと、出演者の演技力にすべてを委ねた感じの映画で、それだけで十分に面白いのですが、一体、ポランスキーは何してたんだ?という気もしないではありません。どうやら廊下のシーンで、隣室の住人としてちらっと顔を出しているそうなのですが……。

ということで、大人向きの気の利いた映画です。週末の晩などに、リラックスして楽しむにはぴったりだと思います。

公式サイト
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[仕入れ担当]