映画「アメリカン・ハッスル(American Hustle)」

0 話題作ですね。豪華なキャスティングと、練りに練られたシナリオに、ハリウッド映画的なパワーを感じる作品です。誰が観ても楽しめる一本だと思います。

内容は、FBIに逮捕された天才肌の詐欺師と愛人のカップルがオトリ捜査に協力させられ、その顛末を面白おかしく描いていくもの。アトランティックシティにカジノをオープンさせようとする市長と、その利権に群がる連邦議会の議員を、でっち上げのアラブ富豪を使って陥れて政界の汚職を暴こうという作戦です。

物語の枠組みに、1970年代の終わりから80年代初めにかけて実際にあったアブスキャム事件を使っていますが、どちらかというと事件そのものよりも、創作されたディテールの面白さが際立ちます。そして、そのディテールを支える演技力。実力的に旬の人たちを結集させた感じでしょうか。

まず、主役の詐欺師、アーヴィン・ローゼンフェルドを演じたクリスチャン・ベイル(Christian Bale)。「マシニスト」や「ザ・ファイター」の役作りで大幅な減量をしてみせた人ですが、今回はお腹ぽっこりの中年太りで登場します。おまけに頭頂部を剃り上げたバーコード・ヘア。冒頭で、ウィッグをのり付けして髪を整えるシーンが出てきますが、ここで几帳面に表面を取り繕うアーヴィンの性格をしっかりと説明しています。

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髪型で言えば、アーヴィンを引き込んでオトリ捜査を仕掛けるFBI捜査官、リッチー・ディマーソを演じたブラッドリー・クーパー(Bradley Cooper)も同様です。役人的で生真面目な上司を持ちながら、大きな仕事を夢見る野心家らしく、家でカーラーを巻いて直毛をカーリーヘアに変え、はったりをきかせます。

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そして、捜査対象となる熱血漢の市長、カーマイン・ポリートを演じたジェレミー・レナー(Jeremy Renner)の伸びたリーゼントヘア。この野暮ったい雰囲気が、失業対策を訴えて市民の熱狂を集める地方都市の市長にぴったりです。

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男優のことばかり書いてしまいましたが、この映画を素晴らしいものにしているのは、何といっても、主役アーヴィンの愛人であるシドニーと、妻であるロザリンの2人。

特にシドニーを演じたエイミー・アダムス(Amy Adams)は、最近も「ザ・ファイター」「オン・ザ・ロード」「ザ・マスター」「人生の特等席」と観てきましたが、これほどうまい女優さんだと思いませんでした。素晴らしい演技です。

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ロザリンを演じたジェニファー・ローレンス(Jennifer Lawrence)のうまさは言うまでもありません。「世界にひとつのプレイブック」ではバツ1の女性の役でしたが、今回は、若いシンングルマザーが年の離れた結婚で専業主婦になったという、ちょっと間の抜けた感じの役柄。夫や子どもとのやりとりから、Live and Let Die(007「死ぬのはやつらだ」のテーマ)を歌うシーンまで、彼女が登場する度に爆笑させてくれます。

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この映画のテーマはホンモノとデタラメ。制作時の題は"American Bullshit"だったそうで、映画のセリフでも"bullshit"が連発されますが、直訳すると"アメリカ的デタラメ"という感じでしょうか。一言で言えば、ホンモノの政治家のデタラメな世界を暴くため、ホンモノのFBIがデタラメな捜査をして、虚々実々の駆け引きを繰り広げていく物語です。

彼らとは反対に、詐欺師というデタラメな世界に生きながら、ホンモノの大切さを知っている主人公たち。彼らの詐欺のポリシーであり、ほとんど口癖のようになっている"from the feet up"という言葉は、足元から完ぺきにキメキメにするという意味でラッパーなどがよく使う表現(g’d up from the feet up)ですが、デタラメをやり遂げるために、完ぺきにホンモノらしく振る舞う必要があるという世界で生きているわけです。

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彼らがホンモノの信頼関係にこだわって、最後のデタラメを仕掛けるあたり、デヴィッド・O・ラッセル(David O. Russell)監督の映画に対する思いをみたように思いました。

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