一昨年に観たドゥニ・ヴィルヌーヴ監督「ボーダーライン」の続編、スピンオフ作品です。監督がステファノ・ソッリマ(Stefano Sollima)に交代して前作の主人公だったFBI捜査官ケイト(演じたのはエミリー・ブラント)がいなくなり、彼女をサポートしていた国防総省のマット(本作ではCIA捜査官)と、前作で顧問として捜査に加わっていた謎のコロンビア人、アレハンドロの2人を軸に物語が展開します。
カンザスのショッピングセンターでイスラム過激派による自爆テロがあり、メキシコから密入国してきたイスラム教徒が国境警備隊を巻き込んで自爆した一件との関連性が取りざたされます。
アフリカで活動中だったマットは、ソマリア海賊のリーダーを捕らえ、一味がイエメン人テロリストの送り出しで収入を得ていることを突き止めます。つまり、ISIS等のテロ組織がソマリア海賊に金を払い、テロ要員をメキシコに運ばせていたのです。
ソマリア海賊は元々、映画「キャプテン・フィリップス」で描かれていたように積み荷の強奪が生業でしたが、最近は人間の移送にも関与しているとのこと。メキシコの麻薬カルテルも似たような状況で、コカインの密輸だけでなく密入国ビジネスも収入源にしているようです。ちなみに「キャプテン・フィリップス」で主人公の妻役だったキャサリン・キーナー(Catherine Keener)が、マットの上司であるCIA副長官役で本作に出ています。
米国に呼び戻されたマットは、メキシコ国境地帯の麻薬カルテルを掃討するため、カルテル同士の抗争を煽り、彼らの自滅を狙う作戦を命じられます。麻薬王カルロス・レイエスの娘イサベルを誘拐し、対立するカルテルに濡れ衣を着せるという、絶対に表面化させてはいけない汚い仕事です。
マットは旧知のアレハンドロと接触し、作戦への参加を依頼します。なぜならば、彼にはコロンビアの検事時代、麻薬カルテルに家族を殺された過去があり、レイエスに対して強い復讐心を抱いているから。
もちろん、彼がスペイン語を喋るという物語上(+映画制作上)の理由もあるでしょう。前作でマットはカルテル捜査の専門家のように振る舞っていましたが、何しろスペイン語が話せませんので(本作でも終盤に一言スペイン語を発するだけ)、この地域での作戦にはアレハンドロのようなキャラクターが必要になってきます。
イサベル誘拐が計画通りに進み、対立を煽る作戦がうまくいったかのように見えますが、被害者をCIAが保護したという建前で彼女を移送するメキシコの路上で襲撃を受け、クルマから逃げ出したイサベルを見失います。現地人との銃撃戦を演じた捜査官たちは、身元が明らかになる前に国境を越えなくてはなりませんので、アレハンドロ1人が彼女を追うことになります。
イサベルを救い出したアレハンドロは、父娘のふりをして聾者の夫婦の家に身を寄せます。そこで彼の亡くなった娘も聾者だったことが明かされるのですが、このあたりの設定は今回の物語に関係ありませんので、続編に向けた伏線になっているのでしょう。その他、従兄弟の誘いで悪の道に足を踏み入れるメキシコ人の少年もやはり続編の伏線になっているようです。
マットもアレハンドロも元々は公職にありながら、法律よりも自らの意思を優先させるという似たもの同士です。そういった生き方で2人の信頼関係が成り立っているのでしょうが、マットはCIA職員として指揮系統に則らなくてはいけません。何の後ろ盾もない一匹狼であるアレハンドロとは異なります。後半はそういった立場の違いが浮き彫りになり、非情なストーリーが展開していくことになります。
前作と同じく、アレハンドロを演じたのはベニチオ・デル・トロ(Benicio Del Toro)、マットを演じたのはジョシュ・ブローリン(Josh Brolin)。本シリーズの他「インヒアレント・ヴァイス」でも共演していますが、絶妙な組み合わせですね。そこに前作にも出ていたジェフリー・ドノヴァン(Jeffrey Donovan)が絡み、強烈な個性の間でバランスをとっている感じです。
引き続き脚本を手がけたテイラー・シェリダン(Taylor Sheridan)は、この夏に観た「ウインド・リバー」で監督デビューを飾った売り出し中の人。原題のSoldadoは兵士のことで、敢えてスペイン語にしているくらいですからマットのことではありませんが、アレハンドロを指すかどうかは、人によって受け取り方が違いそうです。いずれにしても次作を観ないことにはスッキリしそうにありません。
公式サイト
ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ(Sicario: Day of the Soldado)
[仕入れ担当]