映画「パリよ、永遠に(Diplomatie)」

Diplomatie00 第二次世界大戦の末期、1944年8月にヒトラー総統が命令した「パリ壊滅作戦」。このとき、いかにしてパリが破壊されず残されたか、ドイツ軍将校とスウェーデン外交官の丁々発止の様子を描いた作品です。

監督は「ブリキの太鼓」のフォルカー・シュレンドルフ(Volker Schlöndorff)。ナチス時代を舞台にした作品の多い監督ですが、この「パリよ、永遠に」もナチスの圧政に屈する市民たち、狂気に陥ったヒトラー、暗殺を企てた陸軍の士官たちといった史実を背景に展開していきます。

ちなみに監督の妻マルガレーテ・フォン・トロッタ(Margarethe von Trotta)は「ハンナ・アーレント」の監督です。夫婦ともに立ち位置は一緒ですね。

同じ題材を扱った映画としてはルネ・クレマン監督の「パリは燃えているか」が有名ですが、本作は2011年にフランスで上演されたシリル・ジェリー(Cyril Gely)の戯曲がベースになっていて、舞台劇らしく、概ねホテルの一室での話し合いのシーンで占められています。連合軍やレジスタンスとの戦闘シーンはほとんど出てきません。

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ル・ムーリス(Le Meurice)のスイートルームに拠点を置いたナチスドイツのパリ司令官ディートリヒ・フォン・コルティッツ(Dietrich von Choltitz)将軍のもとに、在フランス スウェーデン総領事ラウル・ノルドリンク(Raoul Nordling)が忍び込んできます。その昔、ナポレオンがこの部屋に愛人を住まわせていて、皇帝の意向で作られた秘密の通路があるとのこと。登場するなり飄々と歴史を語るこの外交官、一筋縄ではいかなそうな人物だとすぐにわかります。

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対するコルティッツ将軍はいかにも生真面目な軍人といった風情。その上、自軍の敗戦が濃厚になり、総統の命令は不条理、さらに肺の疾患を抱えているという窮地に立たされていますので、最初は外交官を冷たく追い返そうとします。

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実はこの2人、この直前に捕虜交換と停戦で何度も話し合い、それなりの成果をみているのですが、さすがにパリを解放しろという話は受け入れられません。将軍自身は「パリ壊滅作戦」が無意味だと認識しているものの、ヒトラーの命令に背くと家族に危害が及ぶので受け入れられないという立場。そこからノルドリンク総領事の執拗な説得が始まるわけですが、この2人の応酬がこの映画の最大の見どころでしょう。

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ノルドリンクを演じたのは「風にそよぐ草」などアラン・レネ作品の常連俳優、アンドレ・デュソリエ(André Dussollier)。ジャン=ピエール・ジュネ監督「ミックマック」では軍事会社の社長を演じていた人です。

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コルティッツ将軍を演じたのは、「真夜中のピアニスト」「預言者」などジャック・オーディアール作品で知られるニエル・アレストリュプ(Niels Arestrup)。「サラの鍵」や「戦火の馬」でも味のある演技を見せていました。

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また歴史の舞台となったル・ムーリスから見えるパリらしい風景もポイントです。テュイルリー公園やルーブル、川向こうのオルセー駅や国会議事堂、エッフェル塔などなど、「パリ壊滅作戦」の攻撃対象となった施設の数々。このサイトに掲載されている位置図をクリックすると映画の写真と共に当時の写真を見ることができます。

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そしてエンディングで流れる曲はマデリン・ペルー(Madeleine Peyroux)が歌う「二つの愛(J’ ai deux amours)→Youtube」。ジョセフィン・ベーカー(Joséphine Baker)の1930年代の名曲です。歌詞の内容もさることながら、アフリカ系とユダヤ系の両親を持ち、大戦中はレジスタンス運動に加わったという彼女の曲を選んだ監督、最後まで徹底しています。

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[仕入れ担当]