ジャン=ピエール・ジュネ(Jean-Pierre Jeunet)監督の最新作です。前作「ロング・エンゲージメント(Un long dimanche de fiançailles)」に引き続き、テーマは愛と反戦。
西サハラで地雷処理の仕事をしていた父を少年時代に亡くしたバジル(Bazil)は、大人になってビデオショップで働いていましたが、事件の巻き添えで頭に銃弾を受け、仕事も住居も失ってしまいます。
パントマイム等で生計を立てる中でプラカール(Placard=ブタ箱の意味)という男と出会い、奇妙な共同生活の一員に迎えられます。廃品の下の穴蔵で暮らしていたのは、それぞれ独特な個性を持った7人。彼らは廃品をユニークな商品に変えて暮らしているのでした。
ある日、バジルは、父を斃した地雷を作った企業と、自分の頭に埋まっている銃弾を作った企業が、向かい合わせに立っていることに気付き、復讐を思い立ちます。盗聴作戦の結果、地雷の企業が、アフリカの元独裁者から闇の取り引きを持ちかけられていることを知り、いたずら(micmacs)を仕掛けることで、銃弾の企業とお互いに潰し合うように仕向けるというのが、おおまかなストーリー。
ジュネ監督らしい、ユーモア感覚あふれる演出と美しい映像の作品です。身体をゴムのように曲げられる女性(La Môme Caoutchouc)や、人間大砲の記録保持者(Fracasse)、なんでも美味しい料理に仕上げてしまう料理人(Tambouille)といった登場人物のキャラクターといい、子どもの頃に遊んだ秘密基地のような住み家といい、観客を童心に返してワクワクさせるような仕掛けでいっぱいです。
主演のダニー・ブーン(Dany Boon)は、パトリス・ルコント(Patrice Leconte)監督の「僕の大切な友達(Mon meilleur ami)」のタクシー運転手。「料理人」役のヨランド・モロー(Yolande Moreau:上の写真)は「セラフィーヌの庭(Séraphine)」の主演女優で、「人間大砲」役のドミニク・ピノン(Dominique Pinon:下の写真)は、デリカテッセン(Delicatessen)からのジュネ作品の常連俳優です。
ちなみに、銃弾の企業の社長役、アンドレ・デュソリエ(André Dussollier:下の写真)は、多くのフランス映画に出演している人ですが、「アメリ(Amélie)」のナレーションを担当した人でもあります。また、撮影の永田鉄男(Tetsuo Nagata)という方は、以前、このブログでご紹介した、Chanel No.5 のための短編映画の撮影を担当した方だそうです。
ファンタジックな映画ですが、下敷きになっているのは紛争国に武器を売り込む「死の商人」への痛烈な批判。主人公を助ける奇妙な仲間が7人なのは、黒澤明監督の「七人の侍」へのオマージュということですから、この映画の武器製造企業と、黒澤作品に出てくる村人から略奪する野武士集団を重ね合わせているのだと思います。
とはいえ、残虐な報復劇ではなく、ローテクな仕掛けを使ったコミカルないたずらで叩きのめすのがジュネ監督。大統領夫人のエピソードやYouTubeの利用など現代的な要素も盛り込まれ、愛に溢れ、楽しさ一杯の映画でした。
公式サイト
ミックマック(Micmacs à tire-larigot)
[仕入れ担当]