映画「風にそよぐ草(Les Herbes folles)」

Lesherbesfolles0 久しぶりのアラン・レネ(Alain Resnais)作品でした。個人的には「恋するシャンソン(On connaît la chanson)」以来ですから、10年振りくらいでしょうか。

ちょっと調べてみたら、アラン・レネ監督は1922年6月3日生まれだそうで、今年で90歳になるのですが、現在も Vous n’avez encore rien vu という次作を製作中とのこと。お元気というか何というか……。

この「風にそよぐ草」で2009年のカンヌ国際映画祭の審査員特別賞を受賞しているのですが、きっとイザベル・ユペールや他の審査委員の皆さんは、これで最後だと思ったのでしょうね。

私が「恋するシャンソン」の前に観たアラン・レネ作品は、おそらく20年くらい前の「メロ(Mélo)」。このメロドラマから題名をとったという洒落た映画で知ったサビーヌ・アゼマ(Sabine Azéma)が、この「風にそよぐ草」でも主演です。「メロ」ではフラッパーみたいなヘアスタイルが印象的でしたが、今回の赤毛のウェービーヘアも記憶に残りそうです。

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映画は、アスファルトの隙間から生えている雑草のアップからスタート。そのまま路面を滑るようにカメラが動いて、行き交う人々の足を映し、サビーヌ・アゼマ演じる歯科医、マルグリットが、マーク・ジェイコブスの靴を買うシーンに展開。この映像の流れといい、靴選びに関する語りといい、何ともフランス映画的な立ち上がりです。

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つまらないことですが、ずっと後のシーンでバスタブから伸びるマルグリットの足が映ると、これがかなりの外反母趾なんですね。ここで靴選びのエピソードが使われた理由(サビーヌ・アゼマはアラン・レネ監督のパートナーです)が見えてくるというか、こういった内輪ウケも含めて笑える映画になっています。

靴を買ったマルグリットは、路上でハンドバッグを引ったくられてしまいます。そこで情景が変わって、中年というか初老の男性、ジョルジュがショッピングセンターで腕時計の電池を交換し、その帰りに駐車場で財布を拾うシーン。財布の中に入っていた小型飛行機の免許を見て、マルグリットに関心を持ちます。

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財布はマチュー・アマリリック(Mathieu Amalric)演じる警官を経由してマルグリットの元に戻り、マルグリットからジョルジュにお礼の電話がありますが、会って話そうと持ちかけるジョルジュの提案を、マルグリットはにべもなく断ります。

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そこからジョルジュのストーカー的な行為が始まるのですが、もちろんそのままストーカー映画にはなりません。登場人物の立場が逆転し、人間関係が複雑になり、意識がズレていきながら虚実がないまぜになっていきます。このあたりの感覚は、キアロスタミ監督の「トスカーナの贋作(Copie conforme)」に似ているような気がしました。

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ちょっと意味不明な部分もあって観ている側を混乱させるのですが、どうやらクリスチャン・ガイイ(Christian Gailly)の原作も同様のようです。大人の恋、と一言で語れるほど単純ではない、フランス的な心象風景といった感じでしょうか。

撮影が「ポーラX(Pola X)」「キングス&クイーン(Rois et reine)」「夏時間の庭(L’Heure d’été)」等のエリック・ゴーティエ(Eric Gautier)ということで、全編とおして素晴らしい映像です。光の色とストーリーが連動するのですが、この光の捉え方が何ともいえない魅力。フランス映画らしい映画がお好きな方にはお勧めだと思います。

公式サイト
風にそよぐ草Les Herbes folles)(Wild Grass

[仕入れ担当]