ほとんどホラー映画は観ないのですが、話題になっているので行ってみました。感想から先に書くと、あまり怖くありませんでしたし、グロテスクな描写もたいしたことありません。ある種のファンタジーとして受け止めても良さそうな作品ですので、興味本位で観に行っても大丈夫だと思います。
何といっても、ポスターのビジュアルが目を引きますよね。先日、ZARAに行ったら、花柄の刺繍を施した白地のワンピースが売られていましたので(これとかこれ)、そのうち街でもミッドサマー風のファッションを目にすることでしょう。
長編デビュー作の「ヘレディタリー」のヒットで注目を集めたアリ・アスター(Ari Aster)監督の2作目です。ホラーというと暗い映像が普通ですが、本作は白夜のスウェーデンが舞台で、ほぼ日が暮れません。明るい陽光と豊かな自然環境に包まれ、ふんだんに花が飾られた祝祭の村で物語が展開していきます。

主役は「ファイティング・ファミリー」のフローレンス・ピュー(Florence Pugh)が演じる大学生のダニー。双極性障害の妹テリーが両親を道連れに自殺し、家族を一気に失ってしまうのですが、ボーイフレンドの大学院生クリスチャンは通り一遍の慰めを言うばかりで、今ひとつ心の支えになってくれません。どうやらダニー自身も精神的な問題を抱えているらしく、クリスチャンは面倒に感じながらも、彼女が立ち直るまで責任もって付き合うべきだと思っているようです。

その翌夏、文化人類学を専攻しているクリスチャンは、仲間のマークとジョシュと共に、スウェーデン人のペレの招待でホルガ村で行われる夏至祭(ミッドソンマル:Midsommar)に行く計画を立てます。論文のテーマが決まっていないクリスチャンに対し、ジョシュはこの祭の儀式について書くことに決めています。マークは夏祭りに性的な期待を抱いていて、当初は男だけで旅行する予定でしたが、儀礼的に誘ったダニーが意外にも前向きで、結局、彼女も同行することになります。

コミューンに到着すると、ペレの兄インゲマールが招待した英国人カップル、サイモンとコニーの2人と共に行動することになります。つまりペレとインゲマールが連れてきた男4人女2人の部外者6人がこの夏至祭に参加するのです。

インゲマールがくれたマジックマッシュルームやドラッグによってテリーの幻覚を見たダニー。意識が戻った後、90年周期で行われるという儀式が始まります。最初は全員揃っての食事ですが、そのとき上座にいた老人2人がこの儀式の主役。アッテストゥーパ(Ättestupa)というそうですが、要するに姥捨てで、このコミューンでは72歳になると自らの名前を次世代に譲ってこの世から去るしきたりなのです。

その非人間的な行いにサイモンとコニーは激怒し、明朝、ここを発つと宣言しますが、明くる日には何故かサイモンだけ駅に向かい、コニーは取り残されています。このあたりからコミューンの不可解さが目立ってくるのですが、ジョシュとクリスチャンは学究的な好奇心というより射幸心のせいで、この先を見届けるまでここを離れられません。

コミューンの人々は広場の中央に屹立するメイポール(マイストング:majstång)の周りで踊ります。豊穣を祈る祭りですので、当然、メイポールは性的な象徴であり、夏至祭のどこかでそういった秘儀が行われるはずです。また自然への感謝を示すために何らかの捧げ物も必要になるでしょう。観客がそういう展開に気付き始める頃合いを見計らったかのように物語が一直線に進み始めます。

日本人にとって、人里離れた集落で行われるアニミズムの儀式は特に珍しいものではありませんので、西洋人のような驚きがないのかも知れません。個人的には、少し前にルーマニアの新年の熊踊りの記事を読んだばかりでしたので、離れた地域でよく似た風習を持っていることを興味深く感じました。

主な出演者としては、ダニーのボーイフレンド、クリスチャン役で「シング・ストリート」のお兄ちゃん役や「ローズの秘密の頁」のフィアンセ役だったジャック・レイナー(Jack Reynor)、ジョシュ役で「パターソン」に出ていたウィリアム・ジャクソン・ハーパー(William Jackson Harper)、マーク役で「レヴェナント」のウィル・ポールター(Will Poulter)が登場する他、アッテストゥーパの老人役で「ベニスに死す」の美少年、ビョルン・アンドレセン(Björn Andrésen)が出ています。

[仕入れ担当]