音楽映画が人気ですね。この映画は連休中にTOHOシネマズで観てきたのですが、本作と「ボヘミアン・ラプソディ」の応援上映がたいへん賑わっていました。どちらも良い音響設備に馴染みやすく、追加料金がとれますので、業界的にも強く打ち出しているのかも知れません。私は年内にもう一度「ボヘミアン・ラプソディ」を観たいと思っているのですが(今回はIMAXではなくTCXで)、この混雑では気が向いたときにふらっと行くのは難しそうですね。
ということでこの「スター誕生」、3回目のリメイクだそうです。バーブラ・ストライサンドが主演した1976年版と同じく音楽業界を舞台にしたもので、デビューを夢見る女性をレディー・ガガ(Lady Gaga)、彼女を見出すベテラン歌手をブラッドリー・クーパー(Bradley Cooper)が演じ、ブラッドリー・クーパーは本作で監督デビューも果たしました。レディー・ガガの歌のうまさが見どころのメロドラマです。
2人の出会いは、カントリー歌手のジャクソンがカリフォルニアでのコンサート終了後、一杯やりたくなって車を止めさせたバー。ドラァグクイーンたちがショーを見せるバーでしたが、唯一の女性の歌い手アリーが登場し、ジャクソンは彼女が歌う“La Vie en Rose ”に心打たれます。
楽屋に案内されたジャクソンはアリーを誘い、深夜営業のバー、ジャクソン曰く警官が集まるcop barに行くことに。
しかし、その店で有名人であるジャクソンに声をかけてきた警官とアリーが喧嘩になり、そのドタバタのおかげもあって2人の距離が一気に近づいて、アリーは自作の曲を披露することになります。
その歌を聞いたジャクソンは、次のコンサートに彼女を誘います。アリーはウェイトレスの仕事があるからと断りますが、朝から運転手に迎えに行かせ、自家用ジェットまで手配して彼女と彼女の同僚ラモンをコンサート会場まで連れてきます。そしてステージに彼女を上げ、件の自作曲を2人で歌ったことでアリーは一躍注目の人に。
もちろん業界関係者も目を付けますし、アリーもそういったチャンスを逃すはずはありません。単独デビューの話を持ちかけてきた音楽プロデューサーのレズ・ガブロンと契約を結んで、ジャクソンと別々に活動することになります。曲調もポップなものに変わり、激しいダンスを披露するステージに変わっていきます。そして人気が爆発します。
対するジャクソンは、元々のアルコール依存にドラッグまで加わり、次第にボロボロになっていきます。マネージャとして、ずっと彼の世話を焼いてきた兄のボビーとも袂を分かってしましましたので、歯止めになる人もいません。歌手としての人気にも翳りが見えてきます。
つまり、出会った当初の立場が逆転したわけです。その決定的な瞬間は、アリーがグラミー賞の新人賞を受賞したときにやってきます。泥酔したジャクソンが、アリーの栄誉ある舞台に泥を塗ってしまうのです。そうして人気歌手アリーと、落ちぶれた歌手ジャクソンという関係が固定されていきます。
そして悲劇的な結末を迎え、感動のエンディングに繋がっていくわけですが、個人的には、ジャクソンの苦悩が伝わってこなくて映画の世界に入り込めませんでした。ブラッドリー・クーパーは「世界にひとつのプレイブック」や「アメリカン・スナイパー」など、心に傷を負い、もがき苦しむ役を演じがちなのですが、どれもキャラが違うというか、リアリティに欠けるような気がします。
本作では家族関係や少年時代の自殺未遂などいろいろ伏線を張って苦悩の理由付けを積み上げるのですが、そのおかげで先の展開が見えてしまい、レディー・ガガの素晴らしい歌唱があってもなお、心に響かない感じです。こういう役は「クレイジー・ハート」で同じような落ち目のミュージシャンを演じたジェフ・ブリッジスや、「はじまりのうた」で新人歌手を見出す酒浸りの音楽プロデューサーを演じたマーク・ラファロのような人間的な味が必要なのでしょう。
まぁインフライトムービーでも良いかな、とも思いますが、何しろ一番の見せ場がレディー・ガガの歌ですので、映画館で観ないと意味がないという実に悩ましい作品です。
公式サイト
アリー/ スター誕生(A Star Is Born)
[仕入れ担当]