映画「アメリカン・スナイパー(American Sniper)」

0 話題作ですね。米国海軍SEALsの狙撃手としてイラクで戦い、敵の戦闘員160人を射殺して伝説となったクリス・カイルを描いた作品です。

主人公を演じたブラッドリー・クーパー(Bradley Cooper)は体重を18キロも増やして頑張っていますし、その妻、タヤを演じたシエナ・ミラー(Sienna Miller)は「フォックスキャッチャー」に続いて有名人のパートナー役をうまくこなしていて、そのあたりも見どころでしょう。

テーマがイラク戦争ですので戦闘シーンもたっぷりあるのですが、それと同じくらい重点がおかれているのがクリス・カイルの米国での生活。生い立ち、妻との出会い、子どもたちとの日常を見せることで、戦地のヒーローであるクリス・カイルと、テキサスで暮らす夫であり父であるクリス・カイルのギャップに光を当てます。

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映画は街に響き渡るアザーンで幕開け。建物の屋上で銃を構える狙撃手のスコープが、アバヤをまとった女性と少年を捉えます。彼らの不審な動きを無線で連絡しながら狙撃すべきか否か逡巡するクリス・カイルですが、女性が少年にIED(手製爆弾)を手渡したのを目にした瞬間、引金に指がかかります。

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そこで画面が変わって、少年時代のクリスが父と一緒に鹿狩りをしているシーン。獲物を仕留め、銃を置いて駆け寄ろうとすると「ライフルを地面に置くな」と叱られます。クリスはこの父から、世界には3種類の人間しかいない、それは羊(sheep)、狼(wolves)、そして番犬(sheepdogs)だと叩き込まれます。

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立派な番犬となったクリスは、米国の羊たちを守るために、躊躇なく少年を撃ち、転がったIEDを拾って投げようとした女性も一撃で仕留めます。クリス・カイルが初めて撃った人間が幼子を抱えた女性だったというエピソードを脚色したシーンです。

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その後、計4回イラクへ派兵され、その合間に米国で家庭を築いていくクリスが描かれるのですが、次第にPTSDの症状が出始め、最終的に退役して、心の病を克服していくことになります。しかし皮肉なことに、支援していたPTSDの帰還兵から射殺されるという痛ましい最期を遂げるわけで、映画は実在のクリス・カイルの葬儀の映像で幕を下ろします。

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多くの米国人にとって、心に響く映画なのだと思います。たとえば従軍するきっかけとしてアメリカ大使館爆破事件、派兵される契機として911のニュース映像が使われていますが、崩れゆくWTCの映像を見て何も感じない米国人はいないでしょう。実際、これらの事件からずっと戦い続けているわけですし、その現実を受け止めながら暮らしているわけですから。

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また、敵にムスタファという、元オリンピック選手だった凄腕の狙撃手がいるという設定。仲間がムスタファに撃たれ、その復讐が戦闘の軸になっていくのですが、実際はクリス・カイルがイラクで聞いたという噂話をもとに創作した人物だそうです。腕の立つガンマン同士が最後に戦うことになるという、まさに西部劇の構図。米国人の琴線に触れる仕掛けですね。

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そんなわけで、よく作り込まれた映画だなぁと思う反面、どこか他人事という感じで観ていました。「J・エドガー」のブログでも書いたように、どうもクリント・イーストウッド(Clint Eastwood)監督の作品は私の体質に合わないようです。実は「ミリオンダラー・ベイビー」以降ほとんどの作品を観ているのですが・・・。

同じくPTSDを扱ったイーストウッド作品なら、本作より「グラン・トリノ」の方が、フィクションならではの展開があって良かったと思うのですが、それですらポール・トーマス・アンダーソン監督がPTSDを描いた「ザ・マスター」のようにはズシッと響きませんでした。やっぱり相性なのでしょう。

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とはいえ、本作はとてもわかりやすく作られていますので、あまり戦争映画を観ない方が、戦争のリアルを感じるには向いている作品だと思います。仮にこの映画を観てピンとこなくても、それは日本が戦争していないからだと考えれば、それはそれで良いことなのではないでしょうか。

公式サイト
アメリカン・スナイパーAmerican Sniper

[仕入れ担当]