先週の「ファースト・カウ」に続いて今回もケリー・ライカート(Kelly Reichardt)監督の作品です。「ファースト・カウ」は2019年の作品ですので、2022年製作の本作が最新作ということになりますが、一昨年のカンヌ映画祭でプレミア上映されたにもかかわらず、日本では一部劇場で限定公開後、ネット配信になるようです。
舞台はオレゴン州ポートランド。主人公のリジーはオレゴン芸術工芸大学(OCAC)で働きながら彫刻家として作品を発表している女性です。ちなみにOCACは2019年に閉校するまで実在した大学で、その卒業生であるシンシア・ラーティ(Cynthia Lahti)の作品がリジーの作品として劇中に登場します。

リジーは独り暮らしですが、引退した陶芸家の父ビル、リジーと同じ大学に勤務している母ジーン、兄のショーンがそれぞれ近くで暮らしています。ショーンも芸術家のようですが、特に活動しないで引きこもっているようで、ジーンが溺愛しているせいではないかとリジーは問題視しているようです。
リジーの暮らすフラットの大家は隣人のジョー。リジーと同世代のアジア系女性で、彼女もアーティストです。どうやらジョーはそのフラットを買って改修し、賃料収入で生活を支えながら芸術活動を行っているようで、大学で働きながら作品を作っているリジーとは状況が異なりますが、それでも友人同士ではあるようです。

現在のリジーの悩みは、間近に迫った個展の準備と、フラットの給湯設備が壊れていて、何度ジョーに言っても直して貰えないこと。彼女も個展を控えていて、遠方の安い業者に注文したいが、その時間がとれないからと延ばし延ばしにされているのです。
友達料金で安く貸しているのだから、こちらの状況を考慮して少し我慢して欲しいということなのでしょう。とはいえ、忙しいといいながら、どこかからタイヤを拾ってきて庭先にブランコを作るなど、いろいろ気に障ります。
作品が完成しなくて休みをとった晩、リジーの部屋に迷い混んできた鳩を彼女の飼猫が傷つけてしまいます。その面倒をみることを厭ったリジーは鳩を追い出しますが、翌朝、ジョーが怪我をしている鳩を見つけ、自分が出かけている間、預かって欲しいとリジーに託します。

結局、リジーは鳩を獣医に連れて行き、150ドル支払うことになるのですが、それを鳩を受け取りにきたジョーに言うと、来月の家賃で相殺するように言われます。鳩のせいで作品に集中できなかった上に治療費まで立て替えさせられて鬱憤が高まります。

自立できない兄も心配ですが、お人好しの父も気になります。空いている部屋に知らない人を滞在させるクセがあるようで、今はリーとドロシーというヒッピーあがりの旅行者を住まわせていて、リジーはそれが気に入りません。

また久しぶりにショーンの家を訪ねると、TVがよく映らないのは隣人が電波を飛ばしているせいだと陰謀論を唱えます。それを母親に伝えると、ショーンは誤解されている天才だからと、真剣に取り合ってもらえません。

こういったストレスフルな人間関係を抱えながら作品作りに勤しむリジー。母との関係の難しさ、お調子者の父とすべてに懐疑的な兄のコントラスト、怪我をした鳩の象徴性などをスパイスに、芸術家としてライバルでもある隣人ジョーとの交流を軸にした物語が展開していきます。

主演は「マンチェスター・バイ・ザ・シー」「ゲティ家の身代金」「フェイブルマンズ」のミシェル・ウィリアムズ(Michelle Williams)。じんわり感情を滲ませる演技がいつもながら絶妙です。ライカート作品はこれが4作目だそうですが、前作にあたる「ライフ・ゴーズ・オン」でニューヨーク映画批評家協会の助演女優賞を獲得しているそうです。

隣人のジョーを演じたのは「インヒアレント・ヴァイス」「ザ・メニュー」のホン・チャウ(Hong Chau)。塩田千春を思わせる糸を張った作品を作るアーティストの役ですが、これはミシェル・セグレ(Michelle Segre)の作品だそうです。

兄ショーンを「ファースト・カウ」のジョン・マガロ(John Magaro)が演じた他、父親役を「きっと ここが帰る場所」「フェイブルマンズ」のジャド・ハーシュ(Judd Hirsch)、その食客であるドロシー役をアマンダ・プラマー(Amanda Plummer)、クリストファー・プラマーの娘ですね、が演じています。

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