映画「フェイブルマンズ(The Fabelmans)」

The Fabelmansスティーブン・スピルバーグ(Steven Spielberg)監督が自身の少年期から青年期の思い出を映画化した作品です。アルフォンソ・キュアロン監督「ローマ」、パオロ・ソレンティーノ監督「Hand of God」、ケネス・ブラナー監督「ベルファスト」と同じ趣向ですが、この3監督が故郷に対する愛着や郷愁を描いているのに対し、スピルバーグ監督は父の仕事の関係で転居を繰り返していましたので、育った地域への思い入れはないようです。その結果、初めて与えられた8ミリカメラに始まる映画撮影へのこだわりが軸になって物語が展開していきます。

幕開けは1952年1月10日のニュージャージー州ハードン・タウンシップ。ミッツィとバートのフェイブルマン夫妻は、息子のサミーを初めて映画館に連れて行きます。演目は「地上最大のショウ」で、入館前、サミーは嫌がるのですが、結局は3人で観賞することになります。

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このときサミーが心を奪われたのが列車の衝突シーン。その後、ユダヤ教の祝祭日”ハヌカ”のプレゼントに鉄道のおもちゃを貰い、それを衝突させて遊びます。すぐに機関車を壊してしまい、父バートは不満げに修理するばかりですが、サミーの意図を見抜いた母ミッツィは、バートの8ミリカメラを使って衝突の瞬間を撮影するように勧めます。

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これがツボにはまり、サミーは8ミリカメラ片手に、妹たちをはじめ、さまざまな被写体を撮り始めます

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1957年の初め、父がGEに転職し、アリゾナ州フェニックスに引っ越すことになります。10代になったサミーは、ボーイスカウトの仲間たちを引き込んで、やや大掛かりな劇映画を撮り始め、腕前を向上させます。戦争映画での銃の発砲シーンをリアルにするためフィルムに針穴を開けたり、このころから特撮への思いがあったようです。

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フェイブルマン家には、バートの友人であり、コンピューター設計のビジネスパートナーだったベニーという男性が出入りしていました。真面目で寡黙なバートとは反対の性格で、常におどけて周りを笑わせる陽気なベニーは、転居が多いせいで友人ができにくいミッツィにとって、数少ない、心許せる存在だったようです。サミーも家族の一員のように接していました。

フェニックスに転居する際、本来は離ればなれになるはずでしたが、ミッツィが強く望んだこともあって、フェニックスでもバートと一緒に仕事することになります。

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ミッツィは元々コンサートピアニストだったのですが、母親の意向もあり、バートと結婚した際に仕事を辞めて家庭に入ったようです。その母親が亡くなり、ミッツィは精神的に不安定になります。心配したバートはサミーに編集機材を与え、家族でキャンプに行ったときの映像でミッツィを楽しませて欲しいと頼みます。

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ある種の弔問なのでしょうか、ミッツィの叔父でライオン使いのボリスが突然フェイブルマンズ家に訪れます。サミーが映画を撮っていることに対し、ミッツィを含め自分の一族は芸術家肌で、オマエはその血を受け継いでいると言います。サミーが、友人たちと映画を撮っている最中だけど、単なる趣味だとしか思っていない父は家族の映画を優先しろと言う、とグチをたれると、家族と芸術の対立は永遠に続く問題だと告げて去って行きます。

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サミーは友人たちとの映画撮影を順延し、キャンプの映像編集に取りかかります。しかし、映像の中にミッツィとベニーの不倫が疑われる箇所を見つけ、動揺したサミーがミッツィに冷たくあたったせいで二人は口論になります。最終的に編集で削除した箇所をミッツィに見せることになるのですが、サミーは二人だけの秘密にしておくと約束します。

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その後、父がIBMに転職し、一家はカリフォルニア州サラトガに引っ越すことになります。今回はベニーを連れて行けないというバートに、ミッツィは渋々ながら同意します。

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ミッツィとベニーの間でどういう話し合いが行われたかわかりませんが、映画を撮ることをやめ、カメラを売り払ったサミーにベニーは新しいカメラを贈ります。最初は拒絶したサミーでしたが、彼がお金を払い、ベニーから買い取ったことにするということで受け取ります。

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転校先の高校では、反ユダヤ的な生徒からイジメを受ける反面、それをきかっけに敬虔なクリスチャンのモニカと交際するようになり、彼女を家族の夕食に招いた際、サミーはDitch Dayの撮影を提案されます。Ditch Dayというのは授業を休みにして生徒たちが楽しむ日(字幕ではおさぼりデー)。映画撮影から遠ざかっていたサミーは渋りますが、彼女が父親のアリフレックス16mmカメラを貸してくれると言い、結局、撮影を承諾します。

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新築していた家が完成して賃貸住宅から転居するのですが、それと前後してバートとミッツィの関係は修復不可能になり、離婚が決まります。プロムで上映されたDitch Dayの映画は好評を博すものの、モニカとの関係は思い通りにいきません。サミーは家族と芸術の両立は難しいという叔父ボリスの言葉を思い出しながら映画への道に邁進することになります。

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サミーを演じたガブリエル・ラベル(Gabriel LaBelle)は新人ながらなかなかの好演でしたが、やはりこの物語の主人公はミシェル・ウィリアムズ(Michelle Williams)が演じた母ミッツィでしょう。このブログでも「ブルーバレンタイン」や「マンチェスター・バイ・ザ・シー」での演技を絶賛していますが、じわっと感情が滲み出す表情が巧すぎます。

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その夫バート役のポール・ダノ(Paul Dano)も抑え気味の演技が絶妙で、「ラブ&マーシー」に並ぶ名演だったと思いますし、叔父ボリス役で出てくるジャド・ハーシュ(Judd Hirsch)、ペニー役のセス・ローゲン(Seth Rogen)も良かったと思いますが、何といってもミシェル・ウィリアムズの巧さが記憶に残る映画です。

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終盤にサミーが憧れの監督に会う場面があるのですが、そのぶっきらぼうな人物、演じているのはジェフリー・ラッシュだと思って観ていたら、エンドクレジットでデビッド・リンチ(David Lynch)だったことに気付きました。スピルバーグは彼に演じて欲しくて、最初は断られたものの再度ローラ・ダーンを介して頼んだそう。エンディングは、その監督のアドバイスに従って画面の水平線の位置が下がります。

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公式サイト
フェイブルマンズThe Fabelmans

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