映画「ROMA ローマ」

00 話題作ですね。ヴェネツィア映画祭で金獅子賞、ゴールデングローブ賞で外国語映画賞と監督賞、米国アカデミー賞で外国語映画賞、監督賞、撮影賞を受賞し、英国アカデミー賞を含め外国語映画賞を競っていた「万引き家族」が、ことごとく割を食うことになりました。とはいえ、これだけの映画はなかなか出てこないと思いますので、是枝監督が不運だったというしかないでしょう。

アルフォンソ・キュアロン(Alfonso Cuarón)監督といえば、現在では、諸々の映画祭やアカデミー賞で監督賞を総なめにした「ゼロ・グラビティ」が有名かも知れませんが、なんといっても「天国の口、終りの楽園。」の監督ですよね。メキシコの普通の人々が活き活きと描かれていた名作でしたが、本作も1970年代のメキシコシティで暮らす家族の日常を捉えたもの。その家で働くメイドにスポットライトを当て、彼女が生活していく中で出会ういくつかの事件を描いていきます。

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舞台となるコロニア・ローマは市内の高級住宅地だそうで、住人の白人一家はキュアロン監督の家族がモデルとのこと。働いている二人のメイドはどちらも先住民で、彼女たちの会話はミシュテカ語になります。といっても、それなりの教育を受けているようで、当たり前にスペイン語を話すだけでなく、子どもとの会話で時制の間違いを指摘してあげたりもします。

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映画の冒頭は、石材の床タイルの映像。画面の外で何かを洗っているらしく、シャカシャカとデッキブラシでこする音が聞こえてきます。そしてバケツから捨てられた水が画面の中に流れ込んできて、その水に上空を飛んでいく飛行機が映り込みます。ただそれだけを長回しで見せるだけですが、その1カットで水の象徴性と作品の完成度の高さが伝わってくる素晴らしい映像です。

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二人のメイドはクレオとアデラ。この映画の主人公であるクレオは、アデラの従兄弟ラモンの友人であるフェルミンと恋に落ちるのですが、この男が問題ありで、物語の進展に伴ってそれが分かってきます。並行してこの白人一家の夫婦間にも問題があり、それも次第に決定的になっていきます。

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大人たちはそういった私的な悩みを抱えているのですが、子どもたちは幸せ一杯の毎日です。トーニョ、パコ、ソフィ、ペペの3男1女の兄弟は、メキシコの陽光の下、両親の財力と優しいメイドに護られて伸び伸びと暮らしています。ちなみに次男のパコが少年時代のアルフォンソ・キュアロンだそうです。

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どうやらこの家族、祖母テレサの振る舞いを見る限り、母親ソフィアの一族が資産家で、そこに父親アントニオが入ってきたというパターンのようです。それが原因で外部に安らぎを求めたのか、不倫に走ってしまった彼は最終的に家から出ていくことになります。

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またクレオが好きになるフェルミン、初めて二人きりになった場面でいきなり武術の形を披露してみせたりして、かなり変な男なのですが、実はメキシコ史の闇を象徴する存在として描かれています。というのは、彼が武術を習っているのは、おそらくロス・アルコネス(Los Halcones)という集団で、時の政権が反政府運動を潰すために秘密裏に作った組織なのです。

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映画の終盤で、クレオとテレサが家具屋に行き、デモをしていた学生たちが射撃されるところに遭遇しますが、これは120人あまりの犠牲者が出たコーパスクリスティの虐殺(La Masacre de Corpus Christi)で、それを主導した武装集団がロス・アルコネスです。

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有名俳優が出ていない映画ですが、武術訓練を指導するゾベック師を演じているラテン・ラヴァー(Latin Lover)は、メキシコではよく知られているプロレスラーだそうです。

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彼が訓練生に“すごいワザをみせる”といって、ヨガでいう木のポーズのような片足立ちをしてみせる場面があります。武術の秘技を期待していた訓練生たちは失笑しますが、それなら自分でやってみろと言われて、試してみると誰もできません。ところがただ一人、観衆のクレオだけが簡単に片足立ちできてしまいます。これは彼女の持つ聖性の顕れであり、終盤の空に向かって階段を上っていくシーンと繋がっているような気がするのですが、いかがでしょうか。

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ぬくもりを感じさせるモノクロ映像と、喜怒哀楽をあまり表面に出さないクレオの佇まいが大きな効果を生んでいる映画です。そんな彼女の内面が、ポスターに使われている海辺のシーンで一気に吹き出し、大きな感動を与えてくれます。彼女を演じたヤリッツァ・アパリシオ(Yalitza Aparicio)は本作でデビューを果たした元教師だそうですが、キュアロン監督のキャスティングの妙が光ります。

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その相手役のフェルミンを演じたホルヘ・アントニオ・ゲレーロ(Jorge Antonio Guerrero)もそれらしくて良かったと思いますが、面白いのはゴールデングローブ賞の授賞式の招待状を貰い、米国行きのビザを申請したところ、不法就労を疑われて却下されたというエピソード。ヤリッツァ・アパリシオやソフィアを演じたマリーナ・デ・タビラ(Marina de Tavira)はL.A.のプレミアに出席できたわけで、彼のそれらしさが裏目に出たのかも知れません。

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この映画、ご存じのようにNetflix限定で劇場公開はしないということでしたが、先週からイオンシネマでの公開が始まりました。今週からはいくつかのミニシアターでも上映されるようです。後方から生活音が聞こえてきたり、音響にも凝った作品ですので、劇場で見直すと新たな発見がありそうです。ということで、下の写真は“初イオンシネマ記念”に撮った1枚です。

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公式サイト
ROMA ローマ

[仕入れ担当]