映画「ヘイル、シーザー!(Hail, Caesar!)」

00トゥルー・グリット」で1969年の西部劇をリメイクし、「インサイド・ルーウィン・デイヴィス」で1960年代ニューヨークで生きるミュージシャンを描いたコーエン兄弟(Joel Coen、Ethan Coen)。

最新作の舞台は1950年代のハリウッド映画界。庶民の娯楽が映画からTVに移り始め、米国内で“赤狩り(Red Scare)”の嵐が吹き荒れて、ショービジネスの世界が大きく変わっていった時代の物語です。

一見、映画スタジオ内のドタバタを描いた明るいコメディ映画ですが、その背景に米国の陰の部分を織り込んでいる重層的な作品といえます。また、登場人物の大半に実在のモデルがいるそうで、米国映画史に明るい方には違った楽しみ方ができそうです。

とはいえ、個人的には、ややこしいことを考えながら観るより、豪華な俳優陣を気軽に楽しむべき映画だと思います。

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主役を「ノーカントリー」「トゥルー・グリット」にも出ていたジョシュ・ブローリン(Josh J. Brolin)が務め、「バーン・アフター・リーディング」のジョージ・クルーニー(George Clooney)やジョエル・コーエンの妻でもあるフランシス・マクドーマンド(Frances McDormand)といったコーエン作品でお馴染みの俳優陣が脇を固める他、レイフ・ファインズ(Ralph Fiennes)やティルダ・スウィントン(Tilda Swinton)など熟練の英国俳優や、スカーレット・ヨハンソン(Scarlett Johansson)、チャニング・テイタム(Channing Tatum)、ジョナ・ヒル(Jonah Hill)など旬の若手俳優が登場します。

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ジョシュ・ブローリン演じるエディ・マニックスは、ハリウッド映画のプロデューサーであり、スタジオで起こるさまざまなトラブルの解決を引き受けるフィクサー。映画の冒頭から、スカーレット・ヨハンソン演じる人気女優ディアナの妊娠騒動に対応したり、ニューヨークの経営陣の意向で、ウェスタン俳優のボビーを制作中の作品の主役に押し込んだり、昼夜を問わない忙しさです。しかしその反面、映画産業の斜陽を見越したロッキード社から転職の誘いがあり、好待遇で安定した仕事、家族と過ごす時間にも心惹かれるものを感じています。

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その頃、エディのスタジオでは、古代ローマを舞台にした歴史スペクタクル「ヘイル、シーザー!」を制作しています。

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ジョージ・クルーニー演じるスター俳優ベアード・ウィットロックを主役に配し、大規模なセットと大勢のエキストラを使った超大作です。大金を投じている関係上、失敗は許されませんので、エディは、キリストの受難シーンについて宗教関係者に根回しする周到さ。

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撮影も大詰めを迎えたある日、主役のベアードが失踪します。これが、いつもながらの気まぐれではなく身代金目当ての誘拐事件とわかり、これまたエディの出番となります。映画は、この誘拐事件を物語の軸にして、その周辺で起こるさまざまな出来事を面白おかしく描いていきます。

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見どころの一つは、このスタジオで撮影されている作品の数々。劇中劇の「ヘイル、シーザー!」の他、スカーレット・ヨハンソン演じるディアナが主演するマーメイド映画や、ボビーのカウボーイ映画「Lazy Ol’ Moon」、チャニング・テイタム演じるスターが歌って踊るミュージカル映画など、50年代ハリウッドを彷彿させるさまざまな映画の撮影シーンを再現しています。

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たとえば、セリフのない西部劇しか経験がないボビーを、人気に乗じて無理矢理ねじ込んだ制作中の映画。その監督を演じたのがレイフ・ファインズなのですが、訛りがきついボビーのセリフにダメ出しして、英国風のくぐもった発音で見本を示すあたりなど、いかにもこういった作品の監督らしくて笑えます。

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そしてもう一つの見どころはディテイル。誘拐犯たちが語る共産主義思想や、彼らに洗脳されるベアード・ウィットロック、ティルダ・スウィントン演じるジャーナリストに対するエディの脅し文句や、エキストラが誘拐したと疑うボビーの発言など、当時の共産党員排斥の様子が良くわかります。その活動の背後でソビエトが暗躍していることを示唆するあたりも、「トゥルー・グリット」でジョン・ウェイン作品をリメイクしたコーエン兄弟ならではなのかも知れません。

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また、ロッキード社のリクルーターがエディに見せる写真など、封印された歴史の一部を示唆するあたりも、コーエン兄弟らしい演出かも知れません。飛行機会社の台頭も、この当時から始まった大きな流れの一部ですし、ハリウッド映画の大作化も同じ流れの中にあると思います。

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いずれにしても、豪華な俳優と、彼らの含みを持たせた演技が魅力の映画です。上記以外の主な出演者としては、大根役者のホビーを演じたアルデン・エーレンライク (Alden Ehrenreich)。「テトロ」で主人公の弟役を務めた他、「イノセント・ガーデン」や「ブルージャスミン」にも出ていた人ですが、これから主演作が続く売り出し中の俳優です。

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また、エディ・マニックスの妻コニーを演じたアリソン・ピル(Alison Pill)は、その特色ある表情に見覚えがあると思ったら「ミッドナイト・イン・パリ」でゼルダを演じていた人。そして、ディアナとの関係を取り沙汰される映画監督を演じたのは、懐かしの「サブウェイ」のクリストフ・ランベール(Christopher Lambert)。しばらく見ないうちに随分と歳をとりました。

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