ボストンの犯罪王とFBIが裏で繋がっていたという実話をベースにしたクライムサスペンスです。実在のギャング、ジェームズ・バルジャーをジョニー・デップ(Johnny Depp)、FBI捜査官ジョン・コノリーをジョエル・エドガートン(Joel Edgerton)、さらにジェームズ・バルジャーの弟で州議会議員だったビリー・バルジャーをベネディクト・カンバーバッチ(Benedict Cumberbatch)が演じるという豪華な配役。監督は「クレイジー・ハート」のスコット・クーパー(Scott Cooper)で、 相変わらず人情の機微を上手に描いています。
アイルランド系のジミー・バルジャーとジョン・コノリーは共にサウス・ボストン、通称サウシー(Southi)で育った幼なじみ。マフィア撲滅の使命感に燃えるジョン・コノリーは、子どもの頃から親分肌だったバルジャーに情報提供者になるように持ちかけます。最初は難色を示したバルジャーでしたが、イタリアン・マフィアを潰せば自らのウィンターヒル・ギャング(Winter Hill Gang)が地域を牛耳れると、秘密裏に繋がることに同意します。
そうして1975年に始まったギャングとFBIの密約は、1988年にボストン・グローブ紙にスクープされるまで続きます。この一大スキャンダルを取材したディック・レイア(Dick Lehr)とジェラード・オニール(Gerard O’Neill)が2001年に出版した"Black Mass: The True Story of an Unholy Alliance Between the FBI and the Irish Mob"(邦訳「密告者のゲーム―FBIとマフィア、禁断の密約」)が本作の原作です。
最初はジョン・コノリーから話を持ちかけたものの、最終的にバルジャーの配下のようになってしまうというお話です。マフィアを追い詰めるという本来の目的も、バルジャーに情報を流し、その見返りに様々な便宜を図ってもらっているうちに、どこかに追いやられてしまいます。サウシーの人気者だったバルジャーと仲良くしたい、一目置かれたいという部分がどんどん大きくなってしまうのです。
ストーリー的にいえば、主役はジョン・コノリーを演じたジョエル・エドガートンですが、やはり注目はバルジャーを演じたジョニー・デップでしょう。醸し出す雰囲気も、冷徹さに満ちた視線も真に迫るものがあります。しかしそれだけではありません。エンドロールで本人の顔写真とその後の人生が示されるのですが、外見がバルジャーに瓜二つなのです。
なんといってもジェームズ・バルジャーは、ウサマ・ビン・ラディンに次ぐ重要な指名手配犯として200万ドルの懸賞金が掛けられていた有名人。米国民の多くは本人の顔を知っているわけで、薄毛&ブルーアイズの特殊メイクは説得力を持たせるために必須だったようです。おかげでポスターでもおわかりのように、ジョニー・デップが演じていることさえわからないレベル。それも含めて、最近観た彼の映画の中では出色の演技でした。
ジョエル・エドガートンも負けず劣らずの名演です。特に良かったのがバルジャーと関わることで自身が変化していく様子。当初は隠すように着けていたゴールドの腕時計が次第に馴染んでいき、上司にウソをつき続けるうちに尊大さが身についていって、なかなか良い感じです。「アニマル・キングダム」「華麗なるギャツビー」「ディーン、君がいた瞬間」と存在感を増してきていましたが、本作では持てる力を出し切ったという感じでした。
それにしても米国ってすごいな、と思うのが、実の兄が刑務所に入っていても弟が州議会議員に選ばれてしまうこと。
ジェームズ・バルジャーは強盗で1956年から服役し、1965年に出所してからも博打の胴元や高利貸しをして1971年にギャングのリーダーになっているのですが、ビリー・バルジャーは1959年にマサチューセッツ州の下院議員(House of Representatives)に初当選、1970年には州の上院議員(Senate)に当選しているのです。
それぞれ家族がいますので普段は別々に暮らしていますが、母親の家で一緒に過ごしたり、クリスマスを祝ったり、まったく普通の家族と一緒です。距離をおいたり、関係を隠したりといったことはしていない様子。
FBIも一時は兄弟で闇の繋がりがあるのではないかと疑ったりしますが、兄が尻尾を捕まれないのは、結局のところ弟の力ではなく、FBIに仲間がいたおかげだったというオチ。
ちなみに、ビリー・バルジャーとベネディクト・カンバーバッチはぜんぜん似てません。本人はどちらかというとジェブ・ブッシュのような風貌で、地方の政治家らしいといえばそうですが、洗練された印象とはほど遠い感じです。
映画そのものもノワール系の雰囲気が良い感じで、緊張感が途切れずにエンディングまで楽しめる1本です。バルジャーの愛人の役でダコタ・ジョンソン(Dakota Johnson)、コノリーの妻の役でジュリアンヌ・ニコルソン(Julianne Nicholson)が出ている他、ピーター・サースガード(Peter Sarsgaard)やケヴィン・ベーコン(Kevin Bacon)といった実力派が脇を固めています。
公式サイト
ブラック・スキャンダル(Black Mass)
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