映画「アルバート氏の人生(Albert Nobbs)」

Albert0 去年のアカデミー賞で、主演女優賞を「マーガレット・サッチャー」のメリル・ストリープと競って話題になった映画が、ようやく日本で封切られました。

「彼女を見ればわかること」や「美しい人」の女優、グレン・クローズ(Glenn Close)が自らのライフワークとして映画化に取り組んできた作品だそうで、彼女自身がプロデューサーを務め、前記作品で一緒に仕事をしたロドリゴ・ガルシア(Rodrigo García)監督を招聘して実現したものだそうです。

グレン・クローズ演じるアルバート・ノッブスは、ダブリンのホテル、モリソンズのウェイター。元々はアイルランドの裕福な一族の私生児として生まれた女の子でしたが、本当の親も自分の名前も知らないまま預けられて育ち、14歳のとき、ある事件をきっかけに女性として生きることをやめます。

それ以来、40年間にわたって男性としてウェイターの仕事をしてきましたが、小さな店を買い、タバコ屋を営みながら暮らすことがささやかな夢。こつこつと貯めてきた資金が目標額に近付いてきて、実際に店舗物件を探し始めています。

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そんなとき、偶然、自分と同様に男性として生きてきた女性、ヒューバート・ペイジと出会い、彼女が妻を娶って仲睦まじく暮らしていることを知って、これまでの孤独な人生に終止符を打とうと思い始めます。

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一緒に暮らす相手として選んだのは、モリソンズのメイドのヘレン・ドーズ。彼女にアプローチし始めますが、ヘレンは同じホテルで働くジョーと交際していて、ジョーはヘレンに対し、アルバートに気があるフリをして、アルバートからお金を巻き上げるように指図します。

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本当は女性であるアルバートが、女性と結婚すること自体とても困難なのに、今まで他人と係らずに暮らしてきたことから世渡りも上手くありません。そんなアルバートがどういう人生を送っていくのか、というのが物語の流れです。

もちろんこの映画の見どころは、グレン・クローズの演技。自らの性を隠し、男性として生きる切なさを、ときおり見せる寂しげな視線で表現しているあたりは、さすがとしか言いようがありません。

そして、ヒューバート・ペイジを演じたジャネット・マクティア(Janet McTeer)。トニー賞やローレンス・オリヴィエ賞などを受賞している実力派の舞台女優だそうですが、大英帝国勲章を受けているだけあって、突出した存在感を示しています。

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ヘレンを演じたのは「キッズ・オールライト」「永遠の僕たち」のミア・ワシコウスカ(Mia Wasikowska)。ジョーを演じたのは「ノーウェアボーイ」「キックアス」のアーロン・ジョンソン(Aaron Johnson)。どちらも悪くなかったと思いますが、やはりグレン・クローズの思い入れの強さと、ジャネット・マクティアの存在感には敵いません。

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また、女性の描き方では右に出る者はないという印象のロドリゴ・ガルシア監督ですが、男性の姿をした女性を描くのは難しかったのか、「愛する人」のときのような巧さは感じませんでした。

とはいえ、舞台劇のような展開の先に控える思いがけない結末といい、エンディングのシネイド・オコナーの歌といい(グレン・クローズの作詞だそう)、なかなか通好みの映画だと思います。こじんまりとした静かな作品がお好きな方にお勧めです。

公式サイト
アルバート氏の人生Albert Nobbs

[仕入れ担当]