先週の「オレンジと太陽」に続いて、過去の隠された事実を描いたドキュメンタリータッチの人間ドラマです。ノルウェーの映画事情を知りませんので、この作品が現地でどういう位置づけなのかわかりませんが、リアリズムを追求した骨太な映画でした。
舞台は1915年のバストイ島(Bastøy)。オスロから75キロ南の洋上に浮かぶ2.6平方キロの小さな島です。映画はこの島にあった少年矯正施設に、エーリングという少年が送られてくるシーンで始まります。
施設内の他の子どもたちが、院長や寮長の指示に従っている中で、島に送られてきた当初からエーリングは脱走することしか考えていません。漁船で殺人を犯した罪で送られてきたことが後でわかりますが、非常に強い個性を感じさせる少年です。
矯正を建前とした重労働や理不尽な懲罰、そして教会の管理下にありながら性的虐待もあります。そのあたりは「オレンジと太陽」と同様に、宗教という閉鎖的で腐敗しやすい権威を批判的に捉えています。
そんな中、エーリングの強い個性に感化された少年たちが、教会の抑圧や管理者の腐敗にいらだちを感じるようになり、その反感が暴動に発展し、1915年5月20日、政府から派遣された軍隊が島を鎮圧します。その反乱に至るまでのバストイ島の生活を丁寧に描いていく映画です。
監督をつとめたマリウス・ホルスト(Marius Holst)にとっては日本初公開作品ですし、エーリングを演じたベンヤミン・へールスター(Benjamin Helstad)を始め、ほとんどが日本では無名の出演者ばかりです。
唯一、院長を演じたステラン・スカルスガルド(Stellan Skarsgård)だけは、「メランコリア」をはじめとするラース・フォン・トリアー監督の作品や「ドラゴン・タトゥーの女」でご存知の方もいらっしゃるかも知れません。
バストイ島の施設は、その後、教会から政府に移管され、しばらく少年矯正のために使われた後、現在ではバストイ刑務所(Bastøy skolehjem)となっているそうです。刑務所のウェブサイトで写真を見ることができますが、日本人がイメージする刑務所とはずいぶんと違っています。
この修道院のような場所で、軍隊が派遣されるほどの反乱を起こした少年たちの心の動きが、痛いほどリアルです。凍てつく透明な空気感と、権威による抑圧の重苦しい雰囲気のコントラストが印象的な映画でした。
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[仕入れ担当]