映画「マクベス(The Tragedy of Macbeth)」

Macbethコーエン兄弟の作品はこれまで「トゥルー・グリット」「インサイド・ルーウィン・デイヴィス」「ヘイル、シーザー!」の他、脚本で参加した「ブリッジ・オブ・スパイ」をご紹介してきましたが、本作は初めて兄のジョエル・コーエン(Joel Coen)が単独で監督したそうです。白黒映像の光と影のコントラストが印象的なこの映画、撮影は彼らの多くの作品を手がけてきた英国人ロジャー・ディーキンス(Roger Deakins)ではなく、「インサイド・ルーウィン・デイヴィス」や前作「バスターのバラード」のフランス人ブリュノ・デルボネル(Bruno Delbonnel)が務めています。

言うまでもなく原作は誰もが知るシェイクスピアの戯曲。予言によって野心を膨らませ、予言を自ら実現させたことで罪の意識と次の予言に怯えるお話ですね。この何度も舞台や映画で演じられてきた物語を、ジョエル・コーエンは精神的に追い詰められていくマクベス夫妻の内面にフォ−カスしながら、犯罪映画を思わせるサスペンス風味に仕上げています。

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マクベスを演じたのは「マルコムX」などのデンゼル・ワシントン(Denzel Washington)。私は知りませんでしたが、これまでも「リチャード三世」や「ジュリアス・シーザー」などの舞台劇で高い評価を得てきたそうです。マクベス夫人を演じたのは監督のパートナーでもある「スリー・ビルボード」「ノマドランド」のフランシス・マクドーマンド(Frances McDormand)で、本作の共同プロデューサーも務めています。

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まず序盤で、3人の魔女を一人で演じたキャサリン・ハンター(Kathryn Hunter)の動きに目を奪われます。脚を奇妙な方向に折り曲げ、不思議なポーズをとるのですが、これが魔女のおどろおどろしさを醸し出すと同時に、この映画の悪夢的な象徴であるカラスと魔女のイメージを繋げます。

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魔女からコーダーの領主と呼びかけられたマクベスは、それは自分ではないと反論しますが、ダンカン王がコーダー領主を更迭し、代わりにマクベスが任命されたことで予言が的中します。魔女のもうひとつの予言、王になる人という言葉が気になりだします。

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そんななか、ダンカン王がコーダー城を訪れることになります。夫に増して野心家のマクベス夫人は、今こそ予言を実現させるチャンスと、王の従者に薬を飲ませ、ためらうマクベスをけしかけて暗殺を遂行させます。そしてその翌朝、使用人に罪をなすりつけて処刑し、マクベスが王位に就くことになるのですが、ここに至る一連の描写と舞台となるコーダー城の端正な設えがこの監督らしさを醸します。

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ストーリーの説明は不要かと思いますが、エンディングの1シーンを除いてセット(soundstageと呼ぶそうです)で撮ったというこの作品、敢えて白黒映像にしただけあって、建物の陰影の活かし方が抜群です。登場人物たちの緊迫感と映像の張り詰めた雰囲気がしっかりかみ合って心をざわつかせます。Apple TV+配信用に製作された作品だそうですが、映画館で鑑賞する方が向いているような気もします。

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もちろんデンゼル・ワシントンとフランシス・マクドーマンドの演技の巧さはいうまでもありませんが、キャサリン・ハンターの凄さは圧巻です。フランシス・マクドーマンドは「ノマドランド」で原作にないシェイクスピアのソネットを諳んじる場面を付け加えていましたが、なにかシェイクスピアに思い入れがあるのでしょうか。いずれにしても彼女とキャサリン・ハンターがこの映画を支える柱になっていると思います。

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その他、主要人物であるバンクォー役のバーティ・カーベル(Bertie Carvel)、その息子フリーアンス役のルーカス・バーカー(Lucas Barker)、ダンカン王役のブレンダン・グリーソン(Brendan Gleeson)、その長男マルカム役のハリー・メリング(Harry Melling)も良かったと思いますが、マクベスへの報復に燃えるマクダフを演じたコーリー・ホーキンズ(Corey Hawkins)とマクベスの腹心ロスを演じたアレックス・ハッセル(Alex Hassell)の演技が特に印象に残りました。

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公式サイト
マクベスThe Tragedy of Macbeth

[仕入れ担当]