映画「デッド・ドント・ダイ(The Dead Don't Die)」

DeadDontDie 特にファンでもないのに、なぜかいつも観てしまうジム・ジャームッシュ(Jim Jarmusch)監督、と書いたのは「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ」が公開された2014年でしたが、2017年の「パターソン」に続いて本作も観てしまいました。ゾンビ映画の体裁をまとったコメディです。

前々作「オンリー・ラヴァーズ・・・」ではスタイリッシュな吸血鬼パロディをみせてくれた監督ですが、本作はとりたてて映像に凝るわけでもなく、ジャームッシュ作品の常連俳優たちが、ジャームッシュ作品らしい映像の中で珍妙なやりとりを繰り広げるという不思議な作品になってます。

中心人物はセンターヴィル警察署の2人、ビル・マーレイ(Bill Murray)演じるクリフ・ロバートソン署長とアダム・ドライバー(Adam Driver)演じるロニー・ピーターソン巡査で、もう1人の署員、クロエ・セヴィニー(Chloë Sevigny)演じるミンディ・モリソン巡査が華を添えます。

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つまり、ジャームッシュ監督の「コーヒー&シガレッツ」「ブロークン・フラワーズ」「リミッツ・オブ・コントロール」に出ていたビル・マーレイと、前作「パターソン」に出ていたアダム・ドライバーの競演に、「ブロークン・フラワーズ」のクロエ・セヴィニーが絡んでくるわけです。

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さらに「ダウン・バイ・ロー」「ミステリー・トレイン」「コーヒー&シガレッツ」のトム・ウェイツ(Tom Waits)と、「ブロークン・フラワーズ」「リミッツ・オブ・コントロール」「オンリー・ラヴァーズ・・・」のティルダ・スウィントン(Tilda Swinton)が重要な役を演じ、「コーヒー&シガレッツ」「ギミー・デンジャー」のイギー・ポップ(Iggy Pop)と、監督の長年のパートナーであり「パーマネント・バケーション」「ストレンジャー・ザン・パラダイス」「ミステリー・トレイン」のサラ・ドライバー(Sara Driver)の2人がゾンビ役で登場するという豪華版。これまでジャームッシュ映画を観てきた人なら気になるキャスティングでしょう。

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その他、白人至上主義(キャップはMAKE AMERICA WHITE AGAIN)の農夫フランク役で「スターリンの葬送狂騒曲」のフルシチョフ役スティーヴ・ブシェミ(Steve Buscemi)、ダイナーの常連ハンク役で「さらば愛しきアウトロー」でトム・ウェイツと共演していたダニー・グローヴァー(Danny Glover)、遺体のマロリー役で「ゴールデン・リバー」のお母さんキャロル・ケイン(Carol Kane)といったベテラン勢、ゾンビ映画のお約束である世間知らずの若者役でセレーナ・ゴメス(Selena Gomez)、オースティン・バトラー(Austin Butler)、ルカ・サバト(Luka Sabbat)といった若手人気俳優が出ています。

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ところで映画の舞台となるセンターヴィル(Centerville)という地名、調べてみたら米国各地にあり、映画でクリーブランドに言及されることから、オハイオ州のような気がしなくもないのですが、実はオハイオ州にも何カ所かセンターヴィルがあって、結局のところ、どこにでもある田舎町ということのようです。ちなみに実際に撮影した場所はすべてニューヨーク州(たとえばダイナーの外観はここ、モーテルの外観はここ)だそうで、一口にニューヨークといってもまったく都会のにおいがしません。

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映画は、イギー・ポップとサラ・ドライバーが演じるコーヒーゾンビが町のダイナーに現れ、店の女性たちを食い殺したことを発端に、次々とゾンビが現れ始めるというもの。殺人事件ですので警察の出番となるわけですが、センターヴィル警察の署員は3人しかいませんので、署長のクリフと署員のロニーが現場に駆けつけることになります。

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ゾンビが現れた原因が、極圏のフラッキングで地軸が傾いたから(いわゆるポールシフトですね)というあたりが、ジャームッシュらしさでしょう。地球環境が変化したことで死者たちが生前の欲望を抱えたまま蘇ってきてしまうのです。ダイナーに現れた最初の2人はコーヒーに執着、その後、現れる他のゾンビたちは、たとえば、生前から酒臭かったマロリーはシャルドネ、子どもたちはスニッカーズやオモチャを求めて彷徨います。

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現場だけ見れば不可解な猟奇事件でしょうが、どう思うかとクリフ署長に尋ねられたロニーは、いとも簡単にゾンビにやられたのだろうと結論づけます。そして、その後に言うセリフ“This isn’t gonna end well(これは悪い結末になる)”がキーフレーズのように繰り返されていくことになります。ちょっとネタバレすると、ロニーが犯人を知っている理由もこのセリフも楽屋落ちになっていて、それを面白いと思うか、スベっていると思うかによって、この映画に対する評価が変わってくると思います。

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ティルダ・スウィントンの役柄は、最近、町に移ってきた葬儀屋。そのままでも人間離れした美貌ですが、ブロンドのストレートのロングヘアと白い衣装を合わせた姿は、この世のものと思えない佇まいです。その上、葬儀屋の奥には畳敷きの仏間があり、黄金のブッダの前で居合抜きのようなことをして異質感を際立たせます。なぜか彼女はゾンビの退治法を知っていて、日本刀を携え警察に協力します。

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そしてトム・ウェイツ。森に住む世捨て人ボブの役なのですが、彼がこの事件を最初から最後まで見届けるウィットネスになります。この役が必要なのかどうかよくわかりませんでしたが、彼の存在によって、住人の差別心が顕わになっていく点、物質文明から離れた生き方を示している点で意味があるのでしょう。個人的には、彼の締めくくりのひと言が今の世相に合っているなぁと思いました。

こんなセリフです。
What a fucked-up world.

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公式サイト
デッド・ドント・ダイThe Dead Don’t Die

[仕入れ担当]