久しぶりのスペイン映画です。鬼才アレックス・デ・ラ・イグレシア(Álex de la Iglesia)監督の最新作。このブログでも、2011年に上映された名作「気狂いピエロの決闘」を皮切りに、「刺さった男」「スガラムルディの魔女」、昨年の「グラン・ノーチェ!」までラテンビート映画祭で上映された作品をいくつかご紹介していますが、本作も独特の世界観あふれる1本です。シネマート新宿で開催されている「シネ・エスパニョーラ2017」で観てきました。
ストーリーは実に単純で、見ず知らずの8人の男女がマドリードのバルに閉じ込められてしまうというもの。といっても誰かに監禁されるわけではなく、店から出て行った客がどこからか狙撃され、その人を救出しようと出て行った客も撃たれてしまって、残された客は事情がわからなくて外に出られない状態におかれてしまうお話です。
ちなみに舞台となったこのバル、スペインのABC紙によると、マドリードの中心にある El Palentino という店で、検索してみたら本作のポスターが飾られている店内の様子(google map)が写っていました。場所はカジャオ(Callao)からグランビアの北側の路地に入っていったあたり。飲食店がたくさんあるエリアですね。
閉じ込められた客たちは、互いに疑心暗鬼になりながら、時間の経過とともにそれぞれの私生活が暴かれていきます。このあたりがいかにもイグレシア監督といった感じで、下世話な中に適度な社会性をもたせた絶妙な設定になっています。
ふと気付くと、路上に倒れていた2人は跡形もなく消えています。そして客たちは、事件が起こる前にトイレに入ったまま出てこない客がいることに気付き、便器の傍らで倒れている男を見つけます。
その男のスマホの履歴から、アフリカで致死率の高い感染症に罹ったらしいとわかり、政府が秘密裏に自分たちを隔離したのではないかという結論に至ります。つまり、感染を拡大させないために、感染者に接触した人間すべてを抹殺する作戦です。
道理で、TVで報道されないはずです。街の中心部で火災が発生しているので避難するようにというアナウンスがあったのみで、銃撃があったことも、感染者が出たことも、ニュースはまったく触れません。
バルに残された客たちは一種の運命共同体ですから、力を合わせて危機を乗り越えるべきですが、そうはならず、各人のエゴがむき出しになって互いにぶつかり合っていきます。こういう巻き込まれ型のサスペンスを使って、人間の本質を暴いていく作風はイグレシア監督の十八番ですね。
バルに残されたのは女性店主と2人の女性客、そしてバルの従業員男性と4人の男性客。女性客の1人がアルモドバル監督「私が、生きる肌」「アイム・ソー・エキサイテッド!」で知られるブランカ・スアレス(Blanca Suárez)。イグレシア監督とは「グラン・ノーチェ!」に続く2作目となります。
もう1人の女性客が「抱擁のかけら」「ペーパーバード」のカルメン・マチ(Carmen Machi)。「アイム・ソー・エキサイテッド!」「グラン・ノーチェ!」でもブランカ・スアレスと共演していました。そして女性店主は「気狂いピエロの決闘」「スガラムルディの魔女」「グラン・ノーチェ!」などイグレシア作品の常連女優テレレ・パベス(Terele Pávez)。
バルの従業員は「スガラムルディの魔女」に出ていたセクン・デ・ラ・ロサ(Secun de la Rosa)。中年の男性客2人はアレハンドロ・アワダ(Alejandro Awada)と「気狂いピエロの決闘」「刺さった男」のホアキン・クリメント(Joaquín Climent)。ホームレスのイスラエルが「スガラムルディの魔女」「グラン・ノーチェ!」のハイメ・オルドネス(Jaime Ordóñez)。
そしてもう一人、若いひげ面の男性客ナチョを演じているのがマリオ・カサス(Mario Casas)。イグレシア作品は「スガラムルディの魔女」「グラン・ノーチェ!」に続く3作目ですが、「シネ・エスパニョーラ2017」の上映作品5本のうち、本作の他に「ザ・レイジ」「インビジブル・ゲスト」でも主演を務めている人気俳優です。
最終的にお得意のドタバタになだれ込んでいくのですが、美人女優のブランカ・スアレスとベテラン女優のカルメン・マチに、そこまでやらせるのか、という無茶苦茶な展開になります。残りの上映回数も限られていますのでご覧になるのは難しいかも知れませんが、イグレシア監督のファンなら観ておきたい1本だと思います。
公式サイト
シネ・エスパニョーラ2017
[仕入れ担当]