今年6月のフランス映画祭で上映されて人気を集めたコメディです。フランスの片田舎で酪農を営むベリエ家を舞台に、父、母、弟の3人が聴覚障害という家族の中で、唯一、耳が聞こえる娘ポーラの成長を描いていきます。
身体が不自由な人を取りあげながらも、お涙ちょうだい系の押しつけがましさのない、カラッとした雰囲気の作品です。フランスでは普通なのかも知れませんが、両親の性生活の問題を娘のポーラが医師に通訳するといったシモネタっぽい笑いもあり、全編を通して屈託のない明るさに溢れています。安心して観に行ける1本だと思います。
主な登場人物は、主人公のポーラ、熱血漢の父ロドルフ、開けっぴろげな性格の母ジジ、おませな弟カンタンの4人家族と、ポーラの親友マチルド、音楽教師のファビアン、パリ出身の男子生徒ガブリエル。
選択教科の登録の際、すぐそばに並んでいたガブリエルに一目惚れして、彼と同じコーラスの授業を取ってしまったポーラ。一緒に登録したマチルドは不合格になりますが、音楽教師の気まぐれでポーラは授業を受けられることになり、後に音楽教師がポーラの才能に気付いて、パリで専門教育を受けるように勧めます。
ポーラとしては、ガブリエルとデュエットできるだけで十分。耳の聞こえない家族を残してパリに行くわけにはいきません。とはいえ、歌に対する興味は捨てきれず、家族に内緒でファビアンの特訓を受け始めます。
そんな折、現職村長の施政に反対するため、父ロドルフが村長選挙に立候補することになります。もちろんポーラの協力を期待しているわけですが、ポーラは歌の練習で手伝えません。そこで家族内の衝突が起こり、歌の特訓やパリに対する憬れを家族が知ることになります。
ここでポイントとなるのは、家族はポーラの歌を聴けないこと。彼女に才能があったとしても、それを確かめることができないわけです。そういったもどかしさを、エリック・ラルティゴ(Eric Lartigau)監督が巧みな演出で感動的なエンディングに結びつけていきます。
主役のポーラを演じたルアンヌ・エメラ(Louane Emera)は、オーディション番組“The Voice”で脚光を浴びてデビューしたプロの歌手です。といっても、スターというより、フランス北部出身らしい素朴な雰囲気をもつ少女で、畜産農家の娘の役もぴったり。4ヶ月で習得したという手話も完璧にこなし、本作でセザール賞の新人女優賞を獲っています。
母ジジを演じたカリン・ヴィアール(Karin Viard)は「デリカテッセン」を始めとして、「憎しみ」「年下のひと」「美しき運命の傷痕」「しあわせの雨傘」といった数々の名作に出演している有名女優。
父ロドルフを演じたフランソワ・ダミアン(François Damiens)はベルギー出身のコメディアンで、「タンゴ・リブレ」で葛藤する看守を演じた人です。
音楽教師ファビアン役のエリック・エルモスニーノ(Eric Elmosnino)は「ゲンスブールと女たち」で主役のゲンスブールを演じていた人。マチルド役のロクサーヌ・デュラン(Roxane Duran)は「白いリボン」で医者の娘を演じていた人です。
なお、主だった出演者の中で本当に聴覚障害があるのは、弟カンタンを演じたルカ・ゲルバーグ(Luca Gelberg)と、父の友人役のブルーノ・ゴミラ(Bruno Gomila)の2人だけで、彼ら以外は全員、この映画のために手話を覚えたそうです。
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