フランソワ・オゾン(François Ozon)監督の最新作です。前作「危険なプロット」は郊外のリセに通う少年を軸に展開するサスペンスでしたが、今回の舞台はパリ。アンリIV高校(Lycée Henri-IV)に通う17歳を迎えたばかりの少女が主人公です。
17歳という年齢は、大人と子どものちょうど端境ですから、物語になりやすいのかも知れません。キャリー・マリガンが主演した「17歳の肖像」も、優等生の少女が大人の世界に惹かれ、危険な人たちと関わってしまうお話でしたが、この「17歳」も似たような設定です。
アンリIV高校といえば、パンテノンとパリ第1大学(Panthéon-Sorbonne)を挟んですぐそばにあるルイ=ル=グラン高校(Lycée Louis-le-Grand)と並ぶエリート校。この映画には、実際にアンリIV高校に通う生徒も出演しているそうですが、こういう将来を嘱望された存在であっても、この世代特有の不安定さは誰もが同じわけで、主人公のイザベルは酒やドラッグではなく性的に逸脱していきます。
幕開けは家族でバケーションに訪れたビーチリゾート。砂浜で陽光を浴びるイザベルの姿態を双眼鏡が追いますが、双眼鏡を覗いているのは弟のヴィクトル。この地でイザベルと知り合ったドイツ人の青年フェリックスが訪ねてきたと知らせに行きます。
そう聞いても冷めた表情のイザベル。フェリックスに関心がないのかと思えば、夜中に別荘を抜け出して密会し、それにもかかわらずバケーションの終わりには関係を終わらせてしまします。つまりフェリックスの人格に惹かれていたわけではなく、性的好奇心を満たしたかっただけ、というわけです。
この映画は四季に沿って展開していくのですが、続くシーンは秋のパリ。ネットの出会い系サイトで知り合った大人たちを相手に売春をしているイザベル。それなりに裕福な家庭ですので、もちろん生活費や学費が必要なわけではありません。その理由は誰にも、きっと本人にもわからないと思います。
そんな客の一人である老人ジョルジュ。何度か会ううちに互いに心地良い関係になっていくのですが、ある日、その最中に心臓発作を起こして死んでしまいます。気が動転したイザベルは死体を残して立ち去りますが、すぐに勤務医である母親の職場に警察が訪ねてきて、イザベルの行いは親の知るところに……。
このイザベルを演じたのが、モデル出身のマリーヌ・バクト(Marine Vacth)。実年齢は20歳を超えているそうですが、少女期の危うさと儚さを巧みに表現しています。さすがオゾン監督、女性を描くのが上手です。彼女の醸し出す雰囲気が、この「若さと美しさ」という原題をもつ映画の価値の半分近くを占めていると思います。
イザベルの母親シルヴィ役で「輝ける女たち」ジェラルディン・ペラス(Géraldine Pailhas)、継父パトリック役で「サラの鍵」のフレデリック・ピエロ(Frédéric Pierrot)、そして最後のシーンで「わたしを離さないで」「メランコリア」のシャーロット・ランプリング(Charlotte Rampling)が出ています。
そのシャーロット・ランプリングが演じたアリスと、イザベルが交わす会話こそ、これが夢か現実か分からないのですが、この映画の残りの半分、つまりオゾン監督が言いたかったこと(≠描きたかったこと)なのだと思います。
雑誌のインタビューでオゾン監督は、何度も「ふたりの5つの分かれ路」に言及していましたが、放逸な性行動に絡めて不安定な精神状態を描いていくのは、ある意味、この監督の持ち味なのかも知れません。このところ「リッキー」や「しあわせの雨傘」でそういうイメージが薄まっていましたが、確か「スイミング・プール」も似たような味わいの作品でした。
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17歳(Jeune et Jolie)
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