ニューヨーク州郊外で暮らす13歳の少女の日常を描いた作品です。監督はスタンダップコメディ出身で本作が初監督作品というボー・バーナム(Bo Burnham)。昨年公開された「ビッグ・シック」で主人公のコメディアン仲間を演じていた俳優でもあります。主役を演じたエルシー・フィッシャー(Elsie Fisher)をはじめスター俳優が出てこない低予算映画ながら、「レディバード」などを手がけた製作会社A24のスコット・ルーディンやイーライ・ブッシュのサポートを得て、各国の映画祭で大きな反響を呼んだ作品です。
「レディ・バード」は高校最終学年の少女を描いた作品でしたが、本作は中学校(Middle School)最終学年である8年生の少女ケイラが主人公。とてもキュートな女の子ですが、本人にしてみればちょっぴり太めだし、ニキビもあるし、ということで今ひとつ自信をもてません。クラスの人気者に対して羨望と否定をない混ぜにした複雑な気持ちで接している、どこにでもいる女の子です。

自宅にいるときのケイラは、自身のYoutube番組にいわゆるmotivational videoを投稿しています。もちろん13歳の少女に助言や人生訓を語れるほどの経験はないのですが、これは自分に対する語りかけであり、この映画ではそれをうまく活かしてストーリー展開していきます。
映画の始まりはmac bookを前にビデオを撮影している場面。その日のテーマは“Being Yourself”(自分らしく)で、最初は自分らしいということはどういうことか語っているのですが、そのうち“クラスで物静かだと言われても、それは怖くて話さないのではなく、ただ話さないだけで……“と堂々巡りになってしまい、最後は”他の人にどう思われても心配ない、すべてうまくいく”と結論づけて自分を励ますことになります。動画の〆で言う“Gucci!”がいい感じです。

学校(Miles Grove Middle School)では、卒業を前にクラスの各分野1番を投票したところ”Most Quiet” (最も物静か)に選ばれてしまいます。本人のセルフイメージは、もう少し“イケてる”感じでしたので心底がっかりです。6年生のときにタイムカプセルとして作った靴箱の表面には、ポップな飾り文字で“To the Coolest Girl in the World”(世界で一番クールな女の子へ)と記されていて、ヤレヤレ気分が増していきます。箱の中には「LEGO ムービー」の半券やジャスティン・ビーバーの写真などと一緒にスポンジボブのカプセルトイのようなものが入っているのですが、これはUSBメモリで、将来の自分、つまり8年生のケイラに向けたビデオメッセージが収められています。

この映画では、こういった動画やSNSを通じたコミュニケーションで時代性を打ち出していますが、もっとも丁寧に描写されているのは、いつの時代でも変わらない思春期の少女の迷いや不安です。メディアが手紙だろうとビデオだろうと語られる内容に違いはありません。そのあたりが、かつて少女だった人々の心までを鷲づかみにしているのだと思います。愛用のiPhoneから目覚ましアラームとして流れる曲の“Welcome to the Brand New Day, Welcome to the Brand New Feeling”というフレーズを聞いただけで彼女の心の居場所がわかる感じです。

ビデオカメラに向かって語る真正面の映像と、とぼとぼ歩いて行く背後からの映像が印象的なこの映画、臆病な自尊心と尊大な羞恥心のせめぎ合いというのでしょうか。バックパックにあしらわれた自分のイニシャルKLDのモノグラムや、演奏会のステージの端で打ち鳴らすシンバルなどで自己主張と引っ込み思案を巧みに表現していきます。

またケイラが父親と二人暮らしというのもうまい設定だと思います。思春期の少女を父親が理解できるはずなどないのですが、それでも何とか心を通じ合わせようと試みるマークの姿が感動を呼びます。

映画の中盤で高校の体験入学の場面があり、そこでケイラの案内役となったオリヴィアという最終学年の少女と仲良くなるのですが、彼女に誘われてショッピングモールに出かけるケイラを車で送った父親の行動がリアルで切なくなります。ちなみにモールのファサードはパリセードセンター(Palisades Center)で撮っていますが、話の都合上、吹き抜け下のフードコートが必要になりますので、続くシーンは場所を変えてギャレリア・ホワイトプレーンズ(Galleria Mall)で撮影したようです。

その父親を演じたのは「フランシス・ハ」や「マンチェスター・バイ・ザ・シー」に出ていたというジョシュ・ハミルトン(Josh Hamilton)。オリヴィア役はエミリー・ロビンソン(Emily Robinson)。その他、ケイラを取り巻く男の子たちとして、クラスの憧れの男子エイデン役をルーク・プラエル(Luke Prael)、オリヴィアの同級生である年上男子ライリー役をダニエル・ゾルガードリ(Daniel Zolghadri)、クラスメイトの従兄弟ゲイブ役をジェイク・ライアン(Jake Ryan)が演じています。

そのゲイブとの会話で盛り上がる“四川ソース”が気になって調べてみたら、「リック・アンド・モーティ」というアニメのネタなんですね。関心ある方は”Szechuan Sauce”と”Rick And Morty”のキーワードで検索してみてください。

公式サイト
エイス・グレード(Eighth Grade)
[仕入れ担当]