映画「オーシャンズ8(Ocean's Eight)」

00 「オーシャンズ」シリーズのスピンアウト作品です。2008年にバーニー・マックが亡くなり、3作目の「オーシャンズ13」でシリーズ打ち切りと言われていましたが、犯罪集団をすべて女性に変えて戻ってきました。物語としてはオリジナル版の「オーシャンズ11」を上書きするような内容になっています。監督は「ハンガー・ゲーム」のゲイリー・ロス(Gary Ross)。

オープニングはダニー・オーシャンの妹、服役中のデビー・オーシャンが仮釈放前のインタビューを受けるシーン。オレンジ色の囚人服で神妙な受け答えをしていますが、次のシーンで仮釈放になる際はガラッと様相を変えていて、これからの展開に期待をもたせます。

そのデビーを演じたのはサンドラ・ブロック(Sandra Bullock)。すぐにケイト・ブランシェット(Cate Blanchett)演じる相棒ルーに連絡をとり、刑務所内で練りに練ったという犯罪プランを披露します。この流れは「オーシャンズ11」の始まりと同じですが、犯罪の目的が盗みだけでなく私情絡みというあたりもよく似ています。エンディングの装いを含めて、オリジナル版へのオマージュたっぷりの作品です。

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今回の狙いはカルティエの地下金庫に眠る1億5000万ドルの宝飾ネックレス、トゥーサン(Toussaint)で、これをメットガラで共同ホスト(co-host)を務める女優のダフネ・クルーガーに着けさせてパーティの最中に盗んでしまおうというもの。メットガラというのは、メトロポリタン美術館の服飾研究所が開催する展覧会のために行われるファンドレイジングパーティーで、ご興味ある方は映画「メットガラ ドレスをまとった美術館」をご覧になると良いと思いますが、その主催者であるヴォーグ誌のアナ・ウィンター(Anna Wintour)と同研究所のアンドリュー・ボルトン(Andrew Bolton)も本作にカメオ出演しています。

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さて、どうやって女優ダフネ・クルーガーにトゥーサンを着けさせるか。そのためには自分たちの息のかかったデザイナーに彼女のドレスをデザインさせ、コーディネートするアクセサリーとしてトゥーサンを推すのが近道です。そのデザイナーとして白羽の矢を立てられたのがローズ・ワイルで、90年代に活躍したものの、このところ低迷していて、税金滞納額が500万ドルに膨らんでしまったというアイルランド系デザイナー。売れてないとはいえ、毎年イースターをアナ・ウィンターとケント州で過ごすほど仲が良いところが今回の作戦に最適なのです。

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デビーとルーは早速ローズのコレクションを見にいきます。そこでランウェイの向こうを指さして“ほらあそこにいるのがオマハ銀行の人たち。この期に及んで彼女にお金を貸すのはあの銀行ぐらいでしょ”という会話が交わされます。米国で Omaha bank というと、きらぼし銀行とかスルガ銀行のようなイメージなのかも知れませんが、日本人にはわかりにくいジョークですね。

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同様にわかりにいジョークだと思ったのが、ダフネ・クルーガーの記者会見のシーン。記者から誰の(ドレス)を着るか訊かれて、“うーん、ラ・ペルラ。黒よ”と答えるのですが、La Perla が下着ブランドだと知らないと、はぐらかしている感じが伝わりませんよね。そういった予備知識を必要とするジョークが至るところに散りばめられています。

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ダフネ・クルーガーをアン・ハサウェイ(Anne Hathaway)、ローズをヘレナ・ボナム=カーター(Helena Bonham Carter)が演じていて、それだけでも豪華なキャスティングなのですが、犯罪チームに加わるハッカー役がリアーナ(Rihanna)というのも贅沢なジョークです。というのは、リアーナは前記の映画「メットガラ……」の最も重要な出演者で、ヴォーグ誌のスタッフが“リアーナに一曲歌わせるには30万ドルから40万ドルかかる。呼びたければ higher level ask(≒トップからの依頼)が必要”と言って、アナ・ウィンターに直接電話させるシーンが出てきます。そんなセレブが泥棒の一味を演じれば間違いなく内輪ウケするでしょう。

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それ以外のチームのメンバーは、インド系の宝飾職人アミータを演じたミンディ・カリング(Mindy Kaling)、故買屋かつヴォーグ編集スタッフにまぎれ込むタミーを演じたサラ・ポールソン(Sarah Paulson)、アジア系の掏摸コンスタンスを演じたオークワフィナ(Awkwafina)と多様性を重視。サラ・ポールソンは白人ですが、映画「キャロル」で演じていたアビーそのままに性的多様性を象徴する存在です。

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オークワフィナは話題作「Crazy Rich Asians」にも出ている最近売り出し中の人です。本職はラッパーで、クィーンズ育ちという、それらしいバックグラウンドを持っていますが、本名ノラ・ラム(Nora Lum)という小柄な中華系女優。ちょっとお下劣なラップで注目を集めるまで普通にオフィスワークをしていたそうで、本作のロケ地の近くで働いていたとインタビューで答えていました。

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その他にダコタ・ファニング(Dakota Fanning)やジェームズ・コーデン(James Corden)が出ていますし、パーティシーンのゲストとして大勢がカメオ出演しています。アン・ハサウェイと同じテーブルにはケイティ・ホームズがいる他、ゼイン・マリクやキム・カーダシアン、マリア・シャラポワやセリーナ・ウィリアムズといったセレブたちがメットガラらしさを盛り上げます。デビーはドイツ人セレブを装って忍び込んだようで、ハイディ・クルムとドイツ語で喋っていました。ちなみにサンドラ・ブロックの母親はドイツ人で彼女も12歳までニュルンベルグで育ったそうです。

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もちろん物語そのものも小気味よい運びで爽快です。各自が自然な姿に戻っていくエンディングも素敵でした。

公式サイト
オーシャンズ8Ocean’s Eight

[仕入れ担当]