2015年のベルリン映画祭で上映され、監督のガブリエル・リプステイン(Gabriel Ripstein)が初監督作品賞に輝いたメキシコ映画です。
主演はティム・ロス(Tim Roth)。4ヶ月ほど前にご紹介した「或る終焉」でも主役を務めていましたが、この時期、メキシコ映画に縁があったようです。物語はティム・ロス演じるATF(アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局)捜査員のハリスが、捜査対象である容疑者に捉えられ、アリゾナからメキシコまで連れ去られるというもの。ロードムービー的な作品です。
ハリスを誘拐するのは、密輸組織の新入りルビオ。国境に向かう途中、入国審査官の質問に滑らかに答えられるように、ずっと独り言でシミュレーションしているような気の小さな青年です。本当はこういう仕事に向かないタイプなのかも知れませんが、他に仕事がないので犯罪組織にかかわってしまうという点で、メキシコの今を象徴しているキャラクターといえるでしょう。
そのメキシコ青年を演じるのは「闇の列車、光の旅」に出ていたクリスティアン・フェレール(Kristyan Ferrer)。ちょっと垢抜けない風貌が犯罪組織の下っ端役にぴったりです。巻き込まれて振り回されるティム・ロスよりも、物語を引っ張っていくクリスティアン・フェレールの方が主役なのかも知れません。
ルビオの仕事は、米国内で買いあさった銃器をメキシコに密輸する運転手。彼の仲間が銃器店や展示会(Gun Show)で購入した銃器を、シートの下などに隠して国境を越えます。米国からメキシコへの国境越えは厳しくないようで、独り言シミュレーションのおかげもあって仕事はスムースに運んでいます。
その仲間がATFに目を付けられ、ハリスがルビオの車を調べようとします。しかし、仲間がハリスを返り討ちにして、ルビオの車でメキシコの幹部のもとに運ぶことになります。なぜ捜査官を生きたまま運ぶことになったのか、よくわかりませんが、おそらく米国内で処理するのは危険だと思ったのでしょう。
そこから、ルビオとハリスの600マイルの旅が始まります。ルビオは犯罪組織の末端にいるとはいえ、本質は純朴な青年ですので、会話を交わしているうちに段々と情が移ってきます。その心情の変化、関係性の変化を描きながら、メキシコが抱える闇を浮かび上がらせていく作品です。
不条理だったり不可解だったりするタイプの映画ではありませんが、最後はちょっとオープンエンドな終わり方になっています。ネタばれにならない程度に書くと、2人が別れる場所を米国内とみるか、メキシコ国内とみるかで、2人の変化の帰着点が変わり、ハリスの人間性、ひいては米国とメキシコの関係性に対する印象が大きく変わってきます。
そのあたりを含めて、メキシコがおかれている状況の難しさ、米国の銃社会が抱える病理などがバランス良く描かれているところがベルリン映画祭で評価された点だと思います。鋭さは感じませんが、じわっとくるものはあるのではないでしょうか。
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[仕入れ担当]