厭世的な貴族が、顧客の最期を“サプライズ”な形で演出するという会社と契約したことから始まるロマンティック・コメディです。監督はオランダ出身のマイク・ファン・ディム(Mike van Diem)。1997年に米国アカデミー賞の外国語映画賞を受賞しているそうですが、その後18年を経て初めて発表した長編映画だそうです。
小気味良く展開するこのドラマ、オリジナルはBelcampo(本名はHerman Pieter Schönfeld Wicher)という人が執筆した1984年のTV映画で、マイク・ファン・ディム監督がずっと映画化を熱望していたものだそう。ちなみにBelcampoという筆名は、本名の姓であるSchönfeld(美しいフィールド)をイタリア語に直訳したとのことで、イタリア的な感覚に憧れていた人なのものかも知れません。
物語の始まりはブリュッセルの広大な屋敷。ベルギーなど王制を維持している国には今も貴族制度が残っていますが、主人公のヤーコブも膨大な資産を受け継ぐ貴族の末裔です。幼いころに父を失い、そのショックで感情に蓋をしてしまったヤーコブ。何年も前から生きる気力を失っていましたが、母の存命中は貴族の一人息子としてこの生活を守る義務を負うべきだと考えていました。
その母親が息を引き取り、ようやく死ねるとばかり全資産を売却し、寄付先を指定してさまざまな自殺を試みますが、邪魔が入ってなかなか死ねません。そんなときに、偶然、老人が乗った車いすを海岸の断崖まで押していった男が、一人で帰ってくる場面を目撃します。その現場で拾ったのが、Elysiumという会社名が入ったひと箱のマッチ。
あれは自殺ほう助だったのではないかと考えたヤーコブはElysiumを訪ねます。案の定、さまざまな方法で顧客に最期を迎えさせるサービスを提供している会社で、ヤーコブも契約を結びます。彼が選んだのは“サプライズ”バージョンで、どういう死に方をするかはその時にならないとわからないというもの。単なる自殺ほう助とは異なり、非常に満足度の高い死を提供してくれるといいます。
別のフロアに移動し、自分の死後に使う棺を選んでいると、アンネという一人の女性と出会います。彼女も“サプライズ”の契約をしたということで、ちょっと関心を持ちますが、顧客同士の交流は禁じられているので、会社のスタッフに妨害されます。もちろん妨害されるほど気持ちは強くなるもの。
次第にヤーコブはアンネに惹かれていくことになります。その結果、彼の感情が戻ってきて、もう少し生きたいと思うようになりますが、契約を延期することはできません。そして彼ら2人と、ヤーコブに最期を迎えせさせようとする会社のスタッフとのドタバタ劇が展開していき、最後にちょっとした“サプライズ”があるというお話です。
こう書くと、慌ただしいドラマのように思われるかも知れませんが、この監督の持ち味なのか、北欧映画らしさなのか、全体的にゆったりしていて、ちょっと不思議な感覚です。監督はオランダのウェス・アンダーソンと称されているそうで、言われてみれば、似た雰囲気があるかも知れません。
その独特な感覚の他、この映画の見どころは豪華な屋敷と数々のクラシックカー。アンネが自動車マニアという設定で、彼女の気を惹こうと、ヤーコブは自らのコレクションである往年の名車を取っ替え引っ替え乗りまわします。
主役のヤーコブを演じたイェルン・ファン・コーニンスブルッヘ(Jeroen van Koningsbrugge)、ヒロインのアンネを演じたジョルジナ・フェルバーン(Georgina Verbaan)は共にオランダで活躍している俳優さんだそう。
他にもあまり有名な人は出ていませんが、Elysium社長のMr.ジョーンズを演じたヘンリー・グッドマン(Henry Goodman)は、「ウッドストックがやってくる」で主人公の父親、「黄金のアデーレ」でアデーレの夫を演じていた人です。
公式サイト
素敵なサプライズ ブリュッセルの奇妙な代理店(De Surprise)
[仕入れ担当]