映画「ヒトラー暗殺、13分の誤算(Elser)」

00 先週の「ぼくらの家路」と同じく、これもまたドイツ映画です。ヒトラー暗殺を企てた一介の家具職人にスポットライトを当てた作品で、史実に基づいた物語ながら説明調に流れず、味わい深いヒューマンドラマに仕上がっています。

監督を務めたのは「ヒトラー 〜最期の12日間〜」で注目を浴び、その後「ダイアナ」などの英語作品も撮っているオリヴァー・ヒルシュビーゲル(Oliver Hirschbiegel)。10年振りに手がけたヒトラー映画ということになりますが、今回はヒトラー本人からは距離をおき、彼が動かした時代の大きな波と、それにもまれる個人を対照しながら描いていく作品です。

ヒトラーの暗殺計画は知られているものだけで40回以上あったそうで、ベルリンの地下壕で自決するまで生き延びたわけですから、相当な強運の持ち主だったのでしょう。そんな数多くの暗殺計画の中で特に有名なのが、ドイツ軍の将校たちが終戦間際に起こしたクーデター(7月20日事件)と、本作の題材となったゲオルク・エルザー(Georg Elser)による1939年の爆破事件で、後者は民間人の単独犯という非常に珍しいものでした。

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映画の幕開けは、くり抜いた柱の奥にエルザーがダイナマイトを詰め込む場面。場所は、ヒトラーが1923年の「ミュンヘン一揆」を回顧して演説するビアホールの裏動線で、ヒトラーの背後に時限発火装置を仕掛けて爆殺しようという計画です。準備は周到で、爆破装置も精巧なものでしたが、たまたまその日、ヒトラーが演説を予定より短く切り上げて移動してしまったことで暗殺は失敗に終わります。

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スイスに逃れようとしたエルザーが国境で捕まり、暗殺計画の図面を持っていたことからナチス親衛隊の元に送られます。アルトゥール・ネーベ(Arthur Nebe)と、ハインリッヒ・ミュラー(Heinrich Müller)から取り調べを受けることになるのですが、この二人とエルザーのやりとりが本作の軸の1つになります。

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もう1つの軸は、爆破計画に至るまでのエルザーの半生。家具職人であり、アコーディオン奏者であったエルザーが、ドイツ共産党の主張に共鳴し、ナチス党の行いに反感を覚えるようになる過程が、人妻エルザとの関係を絡めながら描かれていきます。

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エルザーは、ドイツ共産党の軍事組織である赤色戦線戦士同盟(Roter Frontkämpferbund)に参加した時期があったとはいえ、共産党に入党した経歴はなく、純粋に一人の労働者として、自由を望む生活者として、ナチス党の政策に反発していたようです。

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この暗殺計画も、このままではドイツが英仏と戦争を始めて大きな犠牲を払うことになるという個人的な考えに基づくものだったようで、映画の中でもゲルニカの空爆とドレスデンの空爆を対照させてその信念を裏付けるのですが、もちろん、全体主義に染まった当時のナチス幹部には理解されず、拷問を受け、背後関係の自白を迫られることになります。

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痛めつけるだけのミュラーに対し、ネーベは心理戦で事実を語らせる戦術をとります。それはある意味、成功し、ネーベはエルザーの主張を詳細に聞き取ることになるのですが、次第にエルザーに共感めいたものを示すように変わっていきます。

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その数年後、ネーベは7月20日事件に連座したかどで処刑されることになるわけですが、エルザーに接した経験がその下地になったと匂わせるあたり、きっと監督の歴史観なのでしょう。

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エルザーを演じたクリスティアン・フリーデル(Christian Friedel)は「白いリボン」の先生役の他、「チキンとプラム」などにも出ていた実力派。また、ミュラーを演じたブルクハルト・クラウスナー(Burghart Klaußner)は「グッバイ、レーニン!」「愛を読むひと」「白いリボン」「コッホ先生と僕らの革命」「リスボンに誘われて」など多数の作品に出演しているベテラン俳優です。

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人妻エルザを演じたカタリーナ・シュットラー(Katharina Schüttler)も熱演していましたが、やはりこの映画は、歴史のうねりに棹さす個人の信念の強さを、クリスティアン・フリーデルとブルクハルト・クラウスナーの二人が情感たっぷりに見せてくれる作品だと思います。

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