イヴ・サンローランの伝記映画は、2008年に亡くなってから3本製作されているようですが、日本で公開されるのは2011年のドキュメンタリー映画「イヴ・サンローラン」に続いてこれが2本目です。
ちなみに残りのもう1本はベルトラン・ボネロ監督&ギャスパー・ウリエル主演の作品(予告編)で、今月24日にフランスで封切りになります。
今回の「イヴ・サンローラン」の特色は、サンローラン財団の全面的な協力を得ていること。デザイン画もコレクションで着用する衣装もすべて本物ということで、それだけでも観る価値があるといえるでしょう。
そしてもう一つの特色が、主演のピエール・ニネ(Pierre Niney)の風貌が、映像などで見てきたイヴ・サンローランにそっくりなこと。日本ではほぼ無名の俳優ですので(「キリマンジャロの雪」にウェイター役で出ていたそうですが)、他の役のイメージが染みついていないということもあるかも知れませんが、それにしてもよく似ています。
本作では、18歳でディオールのアトリエに入るあたりから40代の半ばまでのイヴ・サンローランの半生を、公私ともにパートナーだったピエール・ベルジェ(Pierre Bergé)との関係を中心に描かれます。
上記ドキュメンタリーの「イヴ・サンローラン」でもカフェ・ド・ フロールでゆで卵を食べていたベルジェ氏、本作でも、サンローランを解雇したディオール社を訴えるための打ち合わせの席で、やはりゆで卵の殻をスプーンで割っていました。そういう点でいえば、ドキュメンタリーと併せて観ると、より楽しめる作品かも知れません。
ただ、本作とドキュメンタリーでは重点を置いている時代が違いますので、登場人物の重要度も異なり、本作では特にディオールのモデルから初期サンローランのミューズとなったヴィクトワール(Victoire Doutreleau)がポイントになっています。
元々はJeanne Devisというありふれた名前だった彼女。16歳の頃にはアールデコのアーティストを目指していたそうですが、18歳でディオールのモデルを務めて注目を集め、Victoire(勝利)という名前に変えたという向上心の強い女性です。映画の中でも触れられているように、Paris Matchの編集者であるRoger Thérondと結婚し(コレクションで使ったローブ・ドゥ・マリエを着たそう)、その後、離婚。1970年代に画家のPierre Doutreleauと再婚してから、Victoire Doutreleauと名乗っているようです。
本作はサンローランの恋愛面にフォーカスして作られていて、特に前半部分は、ヴィクトワールとサンローラン、そしてピエール・ベルジェの関係を中心に展開していきます。
ベルジェ氏はまだご存命ですし、彼の支援でサンローラン財団の協力を得られているわけですから、ジャリル・レスペール(Jalil Lespert)監督もそれなりに配慮したと思いますが、ここではかなり踏み込んだ描写をしていますので、監督として描きたかった部分なのだと思います。
そして後半は、ドキュメンタリーでも取りあげられていたアクセサリーデザイナーのルル・ドゥ・ラ・ファレーズ(Loulou De La Falaise:上の写真)や、ベティ・カトルー(Betty Catroux:下の写真)が登場し、ドキュメンタリーで語っていたような状況が映像で示されます。特にベティ・カトルーとサンローランの出会いの場面など、あまりにも彼女の言葉通りで、思わず笑ってしまいました。
ということで、ヴィクトワールとの関係を除くと、それほど目新しいお話が出てくるわけではありませんが、やはり本物をふんだんに使ったアトリエやランウェイのシーンにはインパクトがあります。さらにいえば、それを扱った衣装デザイナーのマデリーン・フォンテーヌ(Madeline Fontaine)は「アメリ」「セラフィーヌの庭」「チキンとプラム」と手がけてきたベテラン。ファッションに興味がある方なら、とりあえず観ておくべき一本のような気がします。
映画とは関係ありませんが、モナドのブログも今回で1700号となりました。いつもお読みいただき、どうもありがとうございます。
世界中で最もコピーされたデザインだとサンローランが豪語していたモンドリアンルック、こんな身近なところにも取り入れられてました。
公式サイト
イヴ・サンローラン
[仕入れ担当]