映画「チキンとプラム(Poulet aux prunes)」

Poulet0 イラン出身の女性アーティスト、マルジャン・サトラピ(Marjane Satrapi)が監督したファンタジックなフランス映画です。私はこの方のことは知りませんでしたが、主演がマチュー・アマルリック(Mathieu Amalric)ということで観に行きました。

物語の舞台はイランのテヘランです。街の様子から時代は1950〜60年頃だと思いますが、特に限定されません。というか、舞台もテヘランである必然性はなく、ほのかに郷愁を誘うような場所と時代なら、おそらくどこでも成立するお話だと思います。

一世を風靡したバイオリニストのナセル・アリ。大切にしていたバイオリンが壊され、その代わりが手に入らないと悟った彼は、床に伏し、8日後に死ぬことに決めます。その8日間に、自らの過去の記憶から、子どもたちの未来に至るまで、さまざまな思いが去来し、彼の人生を物語っていきます。

技術はあるが、音が空疎だと、師匠から指摘された修行時代。時計屋の美しい娘、イラーヌに恋をして結婚を申し込みますが、イレーヌの父親の反対にあい、恋に破れてしまいます。その傷心がナセル・アリの演奏に深みを与え、師匠のバイオリンを譲り受けて一流の演奏家として世界を旅します。

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テヘランに戻ると、母親に結婚を勧められます。イラーヌが忘れられないナセル・アリは、結婚を拒みますが、母親の押し切られて、教師のファランギースと結婚。ファランギースは、長い間、ナセル・アリを思っていた真面目な女性ですが、家事や子育てに協力的でないナセル・アリに厳しくあたります。

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芸術家であるナセル・アリは、そんなファランギースに不満です。そして彼のバイオリンはいつも、失われた恋の相手、イラーヌへの思いを奏でるのです。

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マルジャン・サトラピの原作「鶏のプラム煮」では、タール(Tar)というギターに似た楽器の演奏家という設定だそうですが、フランス映画ということで、バイオリン弾きに変更されたのでしょう。

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マチュー・アマルリック演じるナセル・アリの切ない表情が絶妙です。「さすらいの女神たち」のときも書きましたが、人生のほろ苦さが、じわっと伝わってくる味わい深い役者さんです。

そして、彼の母親を演じたイザベラ・ロッセリーニ(Isabella Rossellini)。それほど長い時間、登場するわけではないのですが、確かな存在感を発揮して、物語の軸の部分をしっかりと固めていました。

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イラーヌを演じたイラン出身の女優、ゴルシフテ・ファラハニ(Golshifteh Farahani)の美しさもさることながら、ナセル・アリの娘が大人になった後を演じたキアラ・マストロヤンニ(Chiara Mastroianni)や、二役を演じたジャメル・ドゥブーズ(Jamel Debbouze)といったフランス映画でお馴染の俳優が出ているのも嬉しいところ。

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死を決心したナセル・アリを描く映画ですから、本質的には悲劇なのでしょうが、ユーモラスな映像表現や、子役たちのコミカルな演技のおかげで、シリアスな印象はまったくありません。まるで楽しい夢をみたような気持ちになる映画です。

しかし、この映画に関係するイラン出身の二人の女性、原作・監督のマルジャン・サトラピと、女優のゴルシフテ・ファラハニは、イランの宗教政治の苦難を乗り越えてきた人たちだそうで、そんな背景を知ると、この明るさに満ちた映画もまた違った味わいになります。

公式サイト
チキンとプラムChicken with Plums

[仕入れ担当]