モードの帝王、イヴ・サンローラン(Yves Saint-Laurent)の生涯を、遺品のオークションに至るプロセスと重ね合わせて映像化したドキュメンタリー作品です。
※2014年公開の「イヴ・サンローラン」(ピエール・ニネ主演)はこちら
公私にわたるパートナーだったピエール・ベルジェ(Pierre Bergé)の思い出話をベースに、さまざまなアーティストや著名人、ファッション・アイコンの証言や映像で、サンローランの軌跡とモード界の変遷を描き出していきます。
ピエール・トレトン(Pierre Thoretton)監督が10万枚以上見て選んだという写真の数々。
若くして華々しくデビューし、成功したサンローランが、次第に重圧に押しつぶされ、病んでいく姿が克明に描かれます。時おり登場するマラケシュの家が映画のアクセントになっているかのようです。
サンローランは、アルジェリア独立戦争に徴兵されて神経衰弱になり、精神病院に送り込まれたことが理由でディオール(Dior)を馘になって独立します。
その後、コレクションが大成功して、アンディ・ウォーホル(Andy Warhol)に肖像画を描いて貰ったりするのですが、ウォーホルと並ぶとまるで兄弟のようによく似た、狂気を携えた目をしています。
この非常に繊細な心が、先進的なファッションを創造しながら、自らを蝕んでいくことになり、それをピエール・ベルジェが人生をかけて支えていくのです。
ウォーホル以外にもたくさんのアーティストや、ミックジャガー(Mick Jagger)のようなミュージシャンが登場します。
ミュージシャンといえばカーラ・ブルーニ(Carla Bruni)。サンローラン引退時のショーではモデルの1人として登場していましたが、葬儀の際は大統領夫人として最前列に座っていて時代の流れを感じました。
また生涯の友人だったカトリーヌ・ドヌーヴ(Catherine Deneuve)が、サンローラン50周年のイベントで歌を披露しているシーンもあります。ちなみにサンローランを挟んで隣にいたのは女優のレティシア・カスタ(Laetitia Casta)。この夏公開の「ゲンスブールと女たち(Gainsbourg, vie héroïque)」で、ブリジット・バルドー(Brigitte Bardot)を演じている人です。
ピエール・ベルジェの他に全編を通じて登場する友人、というかサンローランのミューズが2人いるのですが、その1人が、ファッションモデルのベティ・カトルー(Betty Catroux)。サンローランと出会ったのは、パリの“とってもゲイな”ナイトクラブだったいう彼女、非常にチャーミングな女性です。
そしてもう1人が、アクセサリーデザイナーのルル・ドゥ・ラ・ファレーズ(Loulou De La Falaise)。大振りのアクセサリーで知られるデザイナーですが、彼女の振りまく空気感がとても印象に残っています。
膨大な美術品コレクションで知られたサンローランですから、終盤のオークションシーンは圧巻です。
ブランクーシ(Brancusi)の彫刻だったと思いますが、2000万ユーロから競りがスタートしたのにはびっくりしました。目録が1800ページに及んだというこのオークション、3日間の落札総額は3億7350万ユーロに達したとか。すごいお話ですね。
ファッションに興味のある方は間違いなく必見でしょうが、ヨーロッパの文化や芸術に興味のある方なら、見ておいて損はない映画だと思います。
公式サイト
イヴ・サンローラン(L’amour fou)
[仕入れ担当]