年末年始に家族が一同に会するご家庭も多いかと思いますが、血縁とはいえ、日ごろバラバラに暮らしていると価値観も違ってきますので、ときとして厄介事が持ち上がったりするものです。
一昨年のブログで書いたフランス映画「クリスマス・ストーリー」は、クリスマスで集まった兄弟姉妹がいがみ合うお話でしたが、この「アナザー・ハッピー・デイ」は、結婚式で集まった親族のさまざまな問題が顕在化していくお話です。
監督・脚本は新人のサム・レヴィンソン(Sam Levinson)。この映画の制作時はまだ26歳だったという若手ですが、低予算ながら隅々まできちんと作り込まれた映画になっています。
オープニングは、別れた夫ポールと同居している長男ディランの結婚式があり、車に息子2人を乗せて実家に向かうリン。ティーンエイジャーの息子はドラッグ中毒で最近まで矯正施設に入れられていたエリオット、もう1人の幼さの残るベンは自閉症=アスペルガー症候群が疑われています。
リン自身、ちょっと情緒不安定なところがある女性ですが、別れた夫との間にできた長女で、リンが引き取ったアリスは、少女時代に自傷行為を繰り返し、いまだ完全に立ち直れていない大学生。実父ポールとの再会が不安なアリスは、リンの再婚した夫リーと一緒に後から来ることになっています。
リンの実家に着くと、父親のジョーの発作で救急車が横付けされています。ジョーには認知症の気があり、そのせいか母親のドリスはちょっと神経衰弱気味です。久しぶりに集まった家族ですが、その騒ぎのせいで夕食は誰かが買いに行ったファーストフード。フライドチキンの油を拭いながら食べる神経質なリンが印象的です。
これだけでも問題の多いファミリーですが、ポールの再婚相手パティは派手好きな気の強い女性で、リンとは犬猿の仲です。自分が育てた息子、ディランの結婚式を、何から何まで仕切ろうとしますが、その言動ひとつひとつが気に障るリン。遅れて当日に来るアリスがうまくこの場を乗りきれるか心配な上に、自分の母親や姉妹とも小さな諍いが絶えません。
物語の軸となるリンを演じたのがエレン・バーキン(Ellen Barkin)。この映画のプロデューサーを兼ねていますので、きっと強い思い入れがあるのでしょう、迫真の演技を見せています。
そしてドラッグ中毒の息子エリオットを演じたのが、実生活でもマリファナ所持で逮捕されたばかりのエズラ・ミラー(Ezra Miller)。「少年は残酷な弓を射る」での冷淡な演技が印象的でしたが、本作でもちょっと斜に構えた十代の役を好演しています。ちなみに次作は小説「ウォールフラワー」の映画化ということで、エマ・ワトソンとの共演もさることながら、制作がジョン・マルコヴィッチと、これまた楽しみな作品です。
アリスを演じたケイト・ボスワース(Kate Bosworth)もなかなか良かったと思いますが、やはり何と言ってもパティを演じたデミ・ムーア(Demi Moore)のbitchyな演技でしょう。
ブルース・ウィリスと離婚し、アシュトン・カッチャー、それに続くヴィト・シュナーベル(ジュリアン・シュナーベルの息子)とも破局し、ゴシップ誌でしか見かけない顔になっていましたが、こういう吹っ切れた演技ができる女優さんだったのですね。私は、彼女を映画で見たのが「チャーリーズ・エンジェルス」以来でしたので、とっても新鮮でした。
物語として、何かが解決したり、うまく収まったりするわけではないのですが、出演者たちの熱演のおかげもあって、リアリティを感じる映画です。たとえば、エズラ・ミラー演じるエリオットが、911の当時を思いながら「死は愛より家族を結束させる」という自らの考えを語るあたり、確かにそういうことってあるよなぁと後で反芻したりしました。
ひそかに音楽も良くて、ニーナ・シモンの"Everything Must Change"が耳に張り付いてしまった私は、ずっと家でアルバム「Baltimore」をかけています。
公式サイト
アナザー・ハッピー・デイ ふぞろいな家族たち(Another Happy Day)
[仕入れ担当]