舞台版のミュージカル「レ・ミゼラブル」を完全映画化したという、このホリデーシーズンの話題作です。
監督は「英国王のスピーチ」のトム・フーパー(Tom Hooper)。冒頭の囚人たちが船を引くシーンから、終盤のバリケードの上で歌うシーンまで、舞台では表現し得ない壮大な風景がスクリーンいっぱいに広がります。
ストーリーはご存知の通り。パン1個を盗んで19年の監獄生活を送ったジャン・バルジャンが仮釈放され、飢えていたところを助けてくれた司教の家から銀器を盗み出してしまいます。すぐに官憲に捕まりますが、司教は銀器は彼に贈ったものだと言い張り、これもあげるべきだったと銀の燭台も差し出して、ジャン・バルジャンに善の心が芽生えるところからスタート。
時代は飛んで、マドレーヌと名前を変え、工場を興して成功したジャン・バルジャン。彼を追う捜査官ジャベールと再会したことで、良心を試されるような事件が起き、結局、築き上げた地位を捨て、彼の工場を馘になって淪落の淵に沈んだファンテーヌの娘コゼットを育てながら、歴史の大きなうねりに翻弄されていくお話です。
この映画の凄いところは、すべての出演者がそれぞれの場面で演じながら歌って映画を完成させているところ。口パクで演技して、後で歌を重ねたのではないそうで、一つ一つのシーンが緊張の連続だったようです。
主人公のジャン・バルジャンを演じたヒュー・ジャックマン(Hugh Jackman)は、監督が正式に決まる前、噂が出た時点でトム・フーパーに売り込んだそうで、その熱意が冒頭のシーンから伝わってきます。というか、冒頭の囚人になりきるため10キロ近く減量したそうで、その囚人を演じているのが(上の写真)ヒュー・ジャックマンだということすら、すぐにはわかりません。
苦悩を滲ませながらの演技もさることながら、歌も想像を絶する素晴らしさ。ラッセル・クロウ(Russell Crowe)演じるジャベールとの掛け合いも絶妙で言うことなしです。私はまだ「リンカーン」も「ヒッチコック」も観ていないのですが、この映画を観ただけで、もう次のアカデミー賞は彼にあげるべきだと思いました。まさに一見の価値ありです。
それからファンテーヌを演じたアン・ハサウェイ(Anne Hathaway)。監督インタビューによると、歌でいちばん苦労したのは彼女ではないかということでしたが、そんなことは微塵も感じさせません。特に、髪を切られながら歌うシーンは、撮り直しができない緊迫感のせいか、迫真の演技でした。ちなみに髪を切られた後のアン・ハサウェイ、夫に電話して「ゲイの兄にそっくりになった」と言ったそう。ちょっと見てみたいですね、そのお兄さん。
彼女は「レイチェルの結婚」のときもそう感じましたが、ただの美人女優で終わらないように難しい役に挑戦し続けていて、個人的に、このままがんばって欲しいと思っています。
そのアン・ハサウェイは「アリス・イン・ワンダーランド」の"白の女王"でしたが、対する"赤の女王"を演じたのがヘレナ・ボナム=カーター(Helena Bonham Carter)。この「レ・ミゼラブル」でもアン・ハサウェイとは対照的な役柄、ファンテーヌの娘コゼットを預かる強欲な宿屋テナルディエ夫人を演じています。
ヘレナ・ボナム=カーターといえば、昔は「眺めのいい部屋」の令嬢でしたが、ここ何年か、たぶんティム・バートンと暮らし始めてからだと思いますが、こういうイジワルでコミカルな役がよく似合う女優さんになりました。今回はサシャ・バロン・コーエン(Sacha Baron Cohen)と一緒に卑しい夫婦を演じて存在感を発揮しています。
コゼットを演じたアマンダ・サイフリッド(Amanda Seyfried)も、その恋人になるマリウスを演じたエディ・レッドメイン(Eddie Redmayne)も良かったと思いますが、歌の巧さが際立っていたのが、テナルディエ夫妻の娘エポニーヌを演じたサマンサ・バークス(Samantha Barks)。
クイーンズ・シアターの舞台版でエポニーヌを演じていた人だそうですが、この人の役柄と歌があまりにも切なくて、彼女が歌い始めた途端、映画館内のあちこちから、洟をすする音が聞こえ始めるほど。この人の歌も一聴の価値ありだと思います。
ということで、このお正月休み、ミュージカルがお嫌いでなければ、観ておいて損はないと思います。映画館の大きなスクリーンで観て良かったなぁと思える映画です。
公式サイト
レ・ミゼラブル(Les Miserables)facebook
[仕入れ担当]