映画「クリスマス・ストーリー(Un Conte de Noël)」

0 「そして僕は恋をする」「キングス&クイーン」の監督、アルノー・デプレシャン(Arnaud Desplechin)の最新作です。

デプレシャン好きなら映画館で観ておいて損はない映画だと思いますが、カトリーヌ・ドヌーブ(Catherine Deneuve)に惹かれて観たのか、「映画が人生に魔法をかける」という宣伝で勘違いしたのか、途中で退席していく人が何人もいました。本国のポスターはひび割れていますよね。決して甘ったるい映画ではありません。

デプレシャン作品ですから、シンプルな一本の物語があるわけではなく、観た人それぞれが感じたり考えたりする作品です。たとえば英語版wikipediaには「こういう家庭には呪われた過去があるに違いない」という先入観で書かれたと思われる梗概が載っていますが、私は、アンヌ・コンシニ(Anne Consigny)が「世界中どこでも同じだと思いますが、クリスマスに家族が集まると必ず喧嘩が始まります」とフランス映画祭で語っていた通り、自然な感覚で描かれた普通の家庭の物語だと思いました。受けとめ方は人それぞれですよね。

前置きが長くなりましたが、映画の舞台はフランス北部の町、ルーベ(Roubaix)。クリスマスを前にヴィヤール家の家族が集まります。これが遺作となったジャン=ポール・ルシオン(Jean-Paul Roussillon)演じるアベルは寛大な父親、カトリーヌ・ドヌーブ演じるジュノンは、一家を仕切っている母親。この両親から4人の子どもが生まれ、長男のジョセフは幼少時に白血病で亡くなります。

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ジョセフを救うためには骨髄移植が必要だったのですが、両親も長女のエリザベートも適合せず、最後の頼みの綱だった生まれたばかりの次男アンリも役に立ちませんでした。ヴィヤール家は末っ子のイヴァンが生まれるまで、ジョセフを失った喪失感に覆われます。

マチュー・アマルリック(Mathieu Amalric)演じるアンリは一家の問題児。エリザベートは彼を嫌っており、彼が事業に失敗したとき、借金を肩代わりする代わりに一家から“追放”します。しかし、母親ジュノンが白血病になり、家族全員が骨髄移植のドナー検査を受けることになって、このクリスマス、久しぶりにアンリが帰ってきます。そこでそれぞれが内に秘めていたさまざまな思いが噴き出して……というのが映画の概要。

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3人兄弟とそれぞれのパートナーや子どもの他、あまりストーリーに関係ない人も登場しますので、予めフライヤー等で人間関係を確認しておかないと、誰が誰だかわからなくなるかも知れません。また過去の物語と現在の物語を、同じ役者が同じメーク(若く見せたり老けさせたりしないで)で演じているので、ぼんやり観ていると時制的に混乱します。

ポイントとなるのは、次男アンリと長女エリザベート、彼女の息子であるポールの関係。エリザベートの夫で数学者のクロード役をイポリット・ジラルド(Hippolyte Girardot)が演じているので、重要な役かと思ってしまいますが、いい加減なアンリの対称的な存在として出てくるだけで、それほど重要ではないようです。

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もう一つのポイントになるのが、キアラ・マストロヤンニ(Chiara Mastroianni)演じるシルヴィアと、その夫イヴァン、従兄弟のシモンの関係ですが、これはご覧になればわかる、というか、ある意味、理解に苦しむのですが、割とシンプルな話です。

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やはり、なぜエリザベートがこれほどアンリを嫌うのか、その明確な説明がないことが映画を分りにくくしています。手紙に秘密がありそうなのですが、それも明かされないまま。母親も、面と向かってアンリを嫌いだと言いますし……。

いろいろな解釈があると思いますが、結局のところ、家族だからこそ、憎悪したり罵倒したりしながらも、どこかで繋がっているというところに集約されるのでしょう。「愛情の反対は憎しみではなく無関心」という言葉がありますが、どうしても無関心になれないのが家族なのだと思います。血は水より濃いということですね。

ということで、できればデプレシャン好きのお友達と一緒にご覧になって、いろいろ語り合うと楽しい映画だと思います。私はせっせと銀器を磨くカトリーヌ・ドヌーブや、深夜放送の十戒や、正装して食事する家族を見て、ヨーロッパだなぁと思いました。

150分という長い映画ですが、豪華キャストのおかげで退屈しませんし、観賞後に何度も反芻できる、映画好きにはお得な一本です。

公式サイト
クリスマス・ストーリーUn Conte de Noël

[仕入れ担当]